みらいつくり大学校企画
第19回みらいつくり読書会@zoom
【課題図書】
スウィフト『ガリヴァー旅行記』
【実施日時】
2021/1/4 16:00〜17:00
【参加者】
A,B,C,D,E,F,G(+ラジオ参加2名) 全9名
【内容】
A:新年明けましておめでとうございます。去年を思い出すと、この読書会でさまざまな本を読んで、みなさんとさまざまな話ができたことが嬉しいなと振り返っていました。新年一回目として1月4日にやるというのは少し早過ぎたでしょうか。また、1回目に『ガリヴァー旅行記』を扱うというのが…読書会らしいですね。みなさんと話せるのを楽しみにしていました。今日初めて、BさんとGさんが参加しています。自己紹介をお願いします。
B:Bです。よろしくお願いします。
A:私は一応会ったことがあるんですけど、Cさんが初めてかと思います。自己紹介をしていただけると知り合えるかと思います。
C:Cと言います。今は東京から参加しています。よろしくお願いします。
A:Dさんは耳だけでしたか?
D:普通に参加できまーす。
A:それはよかった!
E:画面をオフにとのことでしたね。
A:みなさん今回読めましたか?
E:読めましたか?長かったですよね?
F:長かったー。
E:Fさんは何で読んだんですか?
F:これです。
A:初めてみました。
E:どこのやつですか?
F:これは、角川ですね。分厚くて、ここまでしか読めませんでした。
E:さすがのFクオリティ。
F:はっはっは。
E:どこまで読めたんですか?その本は4篇まであるやつですよね?
F:全然…。第1篇の第5章の手前で…。
E:どの辺だろう。
D:まだリリパッド…?
F:そうそう。まだリリパッド。
A:リリパッドどころか…。リリパッドの中でも…。
E:第5章…ちょうどあの場面ですね。火を消すところ。
F:まだ火は消していないです。
E:さすがです。了解。
A:私は岩波文庫で読みました。
E:名訳ですよね。平井正穂さん。
A:確かにそうだなと思いました。Bさんは読めましたか?
B:これです。
A:どこの出版社ですか?
G:集英社ですね。
E:集英社。それって、小人の国と巨人の国だけの話ですか?
G:そうです。
E:そっか。いわゆる簡易版ですね。
A:私はいわゆる簡易版がどのような終わり方をしているのか気になっていました。後で教えていただきたいです。EさんとCさんは岩波でしたか?
E:僕は同じく岩波です。
C:僕も岩波です。ワイド版岩波文庫っていうやつでした。平井正穂さんなのは同じです。でもでかいっていう。ガリヴァーだけに。
E:これも買いました。これは福音館から出ていて、古典童話シリーズというものです。
G:コーチャンフォーに行ったんですけど、それもありました。
E:そうですか。
G:でも見るからに厚そうなので、やめました。
E:これは第四部まで全部あるんです。そして3〜4ページに一つずつ絵があるんです。
C:絵がほしいですよね。
E:あとルビもふってあるから、割と読みやすいと思います。あとは注釈本です。
A:もう『ガリヴァー旅行記』を探究していますね。
E:探究しています。
A:図書館に行って調べると、『ガリヴァー旅行記』のめちゃ高い解説本がありました。4万円くらいしていました。凄まじい本でした。Dさんはどうですか?
D:私のやつはオーディオ版で、8時間ありました。
F:え〜。
D:どうやら、講談社のものを朗読したものみたいです。
E:それってどこで見つけたんですか?
D:iTunesで見つけました。1995年の講談社文芸文庫を朗読したものが元になっているようです。訳者は書いていなかったような。
E:原民樹でしょうか。講談社のは原民樹さんとありますね。
D:もしかして、広島の方でしょうか。あとがきのところに、原爆から5年経った話がありました。あとがきに、詩も載っていました。耳で聞くという体験もすごく面白かったです。
A:先月、Dさんが何かを目で読むのが大変そうだと言っていたので、その時にオーディオブックを調べたんです。Dさんは本読むのが好きだろうし、オーディオブックとか始めているんだろうかなんて考えていたんです。札幌市の図書館ではどうかわかりませんが、公共図書館でオーディオブックの貸出が…なんて記事を見かけたことがありました。
E:そうなんだ。
D:そうですよね。
A:そんなものをDさんにはどうかな、なんて調べていたんです。
D:ありがとうございます。
E:意外と、岩波少年文庫がいなかったですね。
D:おー。
E:Fさんはそっちにいくと思いました。
F:私は今外に出られないので、買ってきてもらっています。なので選ぶことができませんでした。
E:なるほど。ご主人に買ってきてもらったんですね。
F:そう、主人に買ってきてもらいました。
E:第一篇の途中だから、何を読んでも一緒ですが。
F:そうそう。全然進んでいない。
A:8時間かけてオーディオブックというのもすごい話だし。感想から話していきましょう。Hさんはラジオ参加でしょうか?
H:ラジオ参加です。でも実は本を買って読むつもりだったんです。でも、Fさんより進んでいなくて…3ページくらいで今日を迎えてしまいました。
F:仲間だね。仲間に入ろう。
E:どれを買ったんですか?
H:岩波文庫を買ったんですけど、札幌駅の紀伊國屋にはもう全然なくて。てっきりみなさんがそこで買ったのかと思っていました。ライバルがたくさんいると思いました。
E:違うと思う…。
A:いわゆる「流行っている」ということですね。『ガリヴァー旅行記』の年になるかもしれません。
D:確かに。そんな時期かも。
A:Fさん、読んだところまででいいのでいかがですか?このあとBさん感想を聞きますのでお願いします。
F:異国の名前と異国の文言が脳に入ってきませんでした。私はハリーポッターを読んだ時にも、同じことを思ったのですが、説明を想像できないんです。一体これはなんのことを言っているんだろうと思って挫けるんです。でも67ページまでいったので頑張った方かなと思いました。
E:でも、今回はそんなに人の名前は多くないですよね。
F:でもなんか外国の、違う国の発言があったり…。
A:それを言い出したらもう『ガリヴァー旅行記』が成り立たないですよね。書くことがなくなってしまいます。
F:調べたら、映画化されているんですね。小人の国だけ。そっちの方が面白そうだなと思いました。
E:映画って、小人の国だけなんですね。
F:そうみたいです。
E:何回も映画化されているんですよね?
F:そうなんですか。映画は面白そうだなと思いました。
E:でも見ていないんだ。
F:思ったよりも年末年始忙しくて。言い訳ですね。時間があっても興味がないと本を読まないという。みんなの感想を聞いて楽しみにしたいと思います。
E:映画ってジャックブラックのやつですね。2011年の新しいやつ。
F:『ナイト…』、美術館の映画作った人の。
E:『ナイト・ミュージアム』ですね。
F:あれは面白そう。家族でも見られそうだなと思っています。以上です。
A:Bさんどうでしたか?
B:良かったです。
E:読めましたか?
G:小人の国と巨人の国の二つでしたが、最後まで読み聞かせをしました。
E:その二つと言ってもページ数から言うと結構多いですよね。
G:お正月で、特にどこにも出かけてもいなかったので、4回5回くらいに分けて、少しずつ読みました。
E:でもDさんが読んだのは8時間だから、4回に分けても2時間ですからね。なるほど。
G:特に読んだ記憶が今までにはなかったんですけど、なんとなく色々なところからこの話は知っていました。詳しくはないんですけど。最後の方に書かれていたのが、「子どものために書かれたのではなくて、大人のために書かれた話」ということでした。それは意外でした。
E:本当ですよね。子ども向けの本だとばかり思っていました。
G:そうですね。ちょっと風刺的なところがあったんですよね。卵をどちらから割るかで戦争をする、といったような部分です。批判的に書いてあるのかなと思っていました。
A:最後はイギリスに戻っておしまい、という感じですか?
G:そうですね。
E:長い方でも、一回一回戻っていますよね。最後は教訓めいた感じで終わるんですか?
G:教訓めいた感じ…は特にないように思います。
E:行って帰ってきた、ということですか。へー。なるほど。
A:巨人の島に行った後の物語を簡単に説明してから進められればと思います。巨人の島に行ったあとも、色々な場所に行くんです。
G:そうなんだ。
A:次に行くのが、ラピュータという島なんです。『天空の城ラピュタ』という映画がありますよね。それの元ネタとなっているのだと思います。空中に浮いた島です。そこに漂着するんです。その後には、天空の島の下にある都市に行ったりとか…。
E:日本にも行っていますよね。第3篇だけで5つに行っているんですよね。ラピュータ、バルニバービ、グラブダブドリッブ、ラグナグ、日本。
D:日本にも行っていましたね。
E:日本にはちょっとだけだけど。
A:日本はちょっとだけど、その後にまたイギリスに帰ってくる。そこで第3篇が終わりで、最後の第4篇は、フウイヌム国に行きます。そこでは馬が暮らしているんです。
E:その国では、馬がまるで人間のように暮らしていて、人間がヤフーという猿と人間の間のようにして描かれています。そんな話です。
A:最初読んでいて、面白いなと思いながら読んでいました。島を渡っていくのは、以前読書会でも読んだ『星の王子さま』にも似ているなと思ったんです。各星で色々なものが風刺されていきます。批判される。あとは、『ワンピース』という漫画がありますよね。あれも、島を渡っていく途中で巨人族がいたり、天空の島に行ったり、そこの慣れない風習が描かれたりするという意味では似ていると思いました。もちろん戦いがあって、仲間が…というのが『ワンピース』の主題だと思いますので、こういうその土地の風俗を中心に描いているものと主旨は違うように思います。でも描き方は似ているなと思いました。島に行くごとに、私もそこにいたとしたらどうだろうなんて考えていました。「楽しいな」と読んでいたんです。でも途中から怖くなってきました。ずっと、風刺をしているというか、皮肉をずっと言っています。今の世界にも通じるような、政治のこと、軍隊のこと、法律のこと、一つずつ皮肉っていきます。かといって、代案があるわけではなく、ひたすらに皮肉っていく。それが続いていきます。ラピュータくらいまでは「こんな場所に行ってみたいな」と思っていましたが、最後の最後、フウイヌムの国については、読んでいて気持ち悪かったです。私は読書会で読んできたものの中で一番の問題作だと思いました。
E:そうなんだ。
A:問題作というのは、良い意味です。これはすごい本だなと思いました。ヤフーが描かれています。ヤフーは汚いものを好んで、欲望にも汚い。食べ物は好きなだけ汚いものを汚く食べるし、裸になるし。汚く描いてあるヤフー。自分だったら検索エンジンにこの名前はつけません。それに比べて、フウイヌムはいいなと思っていました。でも、途中から、フウイヌムも怖くなってきました。フウイヌムはすごく理性的です。かっちりしている。友愛、博愛を信条としていて理性を超えて何かをすることはない。理性が第一で、死ぬ時にも美しい。徹底的にそうやって書かれています。途中からそちらも怖くなってきました。スウィフトは何を言いたかったんだろうとずっと考えていました。私が思ったのは「この世界に希望なんてない」ということです。そういうことを言いたいのかなと思いました。最初は小人の国に行っていたので、ガリヴァーは「人間山」と呼ばれます。
E:「人間山」ね。
A:あだ名というか。「人間山」と聞くと、私の中ではお相撲さんが出てきちゃいました。それは笑いながら読みました。そんなふうに最初はプププと笑っていましたが、後半怖くて笑えませんでした。
F:「人間山」なんですね。私の持っている本では「巨人山」でした。
E:あー。訳し分けているんですね。Dさんのは?
D:「人間山」でした。
G:本によって違うんですね。
E:Bさんの本も「人間山」ですか?
B:「人間山」です。
E:やっぱり同じなんですね。
D:私の第一感想は、だんだん怖くなってきたというのがAさんと同じでした。ジョナサン・スウィフトはアイルランド人です。アイルランド人でイギリスに対する批判を書いているというのは聞いたことがありました。今回、初めてまともに向き合ってみて、どこが風刺になっているのか最初分かりませんでした。リリパッドと巨人国まで読んで、どこをどうやって風刺しているんだろうと分かりませんでした。そこでWikipedia程度の解説を読んで「え〜深いなぁ」と思いつつ読み進めました。「卵の大きい方と小さい方」という話が、国教・国の宗教を表しているとかいうことも知りました。これは色々な解説があったら面白いだろうなと思っていましたが、分厚い解説書があるんですね。じっくりできる時がきたら読みたいなと思いました。あとは、最後の死なない人間のところがすごく印象に残っています。ある国にそんな人たちが出てきます。稀に、全く死なない人間が生まれてくるんです。その人たちを見て、ガリヴァーは最初にうらやましく思います。でも、実は彼らは疎まれている存在で、本人たちもつらい。
E:死なないけど老いるんですよね。
D:そうそう。老いるし、病いにもなる。
E:死ねないからひたすらに老いていくんです。
F:それはすごくいやです。
D:それこそ、希望のない話なんですよね。その有り様を見てからは、死ねるほうが、定められている方が良いのかな、なんて気分になりました。あとは、ガリヴァーのキャラクターがすごいなと思いました。処世術というか、どこでもやっていけますよね。言葉はスイスイ覚えられるしどこでもうまくやっていけるし、慣れる。最初の方では、家に帰れば妻子と馴染めるし…。すごいなと思っていたんですけど、フウイヌムの国に行って帰ってきた時には、もう馴染めなくなっています。だんだんと帰るたびに、自分の家に対する距離感が変わってくる感じがしました。巨人の国から帰ってきた時には、寄ってくる娘につまみあげます。その時には自分の大きさがわからなくなったんですけど、自分の見方とか故郷とか価値観とかが変わっていきます。そして最後には馴染めなくなってしまった、というのも印象的でした。「ここで終わるんだ」と思いました。そんな感じでした。
A:言語能力がすごいですよね。
D:すごくうらやましい。
A:そしてその場所に慣れていきますよね。まず漂着したら言葉を知ろうとするようになります。
D:うんうん。
A:そうやってしていくのが面白いなと思いました。
C:僕は、急いで読んだんです。2日間くらいで飛ばしながら…速読に近いような形で読みました。面白かったです。色々な元ネタが出てきました。シェイクスピアの方法とも似ています。フィクションの中で現実を風刺するというような方法です。注釈や訳註を読むと「そういうことなんだ」と思いました。当時のアン女王とか、保育党とか、そういうものに見立てているわけですよね。最後は人類そのものを相対化するというか、そういう感じです。そんな方法論が面白いと思いました。別の文化に行くことで今自分がいる当たり前というものを相対化し、違う角度から論じていくというやり方です。解説も面白くて、このやり方は『ロビンソン・クルーソー』に相当影響を受けているとありました。あとはトマス・モア『ユートピア』ですね。この2冊の影響が強いとありました。当時その二つが流行っていたから自分もやろうとなったとありました。あと、スウィフトは自分の誕生日に旧約聖書のヨブ記3章を毎年読むことを習慣にしていたそうです。ヨブ記3章がどういう箇所かというと、「自分が生まれてきた日を呪う」というような箇所なんです。「自分をとりあげた乳母の手は呪われればいいのに。なぜなら自分の人生は苦しみのみなのだから。」、そんな箇所を毎年誕生日に読むという、相当病んだ人だったようです。しかも、この人は聖職者なんですよね。
A:そうそう。
C:イギリスに対して興味があるというか、学んでいるというか。今で言う「本国」というように、当時の感覚でアイルランドとイギリスを同じ国と考えていいのかはわかりませんが、イギリスの政治に物を申したい部分があります。『ガリヴァー旅行記』を書いた後に、論文などで政府への意見書を出すなどしています。そしてスウィフトは最後には精神を病んで死んでしまうんです。
E:スウィフト本人がね。
C:そうです。
F:でも77歳とありましたよね。結構なお年です。
C:そして自分の遺言によって、精神疾患の方のための施設の設立に遺産が用いられたんです。自分が精神を病んで死んだから。なんだかすごい人というか、屈折しているんですよね。生い立ちも。女性に対する異様な憎しみと憧れがあります。生涯に愛人を何人かもつんだけど、ちょっと詳しくは書いていないけれど、DVなのか、異様な女性蔑視のようなものがあります。随所に「女というものは〜」と出てきますよね。そういうのも関係しています。解説までを読んで、スウィフトという人間に興味がうつっていきました。童話として抜群に面白いから、世界中の子どもに読まれているということも面白いです。やっていることは高畑勲とかに似ているとも思いました。宮崎駿もそうです。ジブリの。宮崎駿よりも陰険だという意味で、高畑かなと。『平成狸合戦ぽんぽこ』とか『火垂るの墓』とか『かぐや姫』とか、あれは子どもに対して書いているんだけど、あまりにもメッセージが恐ろしすぎます。『火垂るの墓』とかにしても。だから、スウィフトって高畑っぽいなと思いました。とりあえずそんなところです。
E:僕は子ども向けの話としてしか知らなかったんです。世界文学を読むというような放送大学の講座だったんですけど、それで取り上げられていました。なんで『ガリヴァー旅行記』が世界の古典の中に入っているんだ、と思って興味を持ちました。読み始めてから、初めはとっても面白かったです。この人は記者という設定ですよね。新聞記者的な。書き方が読者に宛てた説明文みたいな感じです。そういう感じだから、なんでそんなに細かく書くんだろうと思っていました。そんな表現も面白いなと思いました。僕もみなさんと同じように、リリパッドとかブロブディンナグくらいまでは笑いながら読んでいました。でも…ラピュータに入ってから、ラピュータそのものはよくわからなかったんだけど、その後に研究所が出てきますよね。ラガードの研究所です。バルニバーニという島の中に、ラガードという大研究所があるんです。そこで、みんなは色々な研究をしています。どの研究も僕らの感覚で言うと「なんで」と思います。例えば、お腹の中に入った有害なものを取り出すために、ポンプでとことん空気を入れる、そして身体中の空気を外に出したらよくなる、と言うんです。でも空気が入りすぎて破裂して死んじゃったりするんです。
F:えー。
E:そんなことをめちゃ真面目にやっているわけです。とことんまでありとあらゆる科学を批判していくというか、そんな感じのところがあります。その辺りから「これはただものじゃないぞ」という感じが漂ってきました。最後にフウイヌムの国に行ったあとは「これはすごい小説だな」と思いながら読みました。一番印象に残ったのは、フウイヌムの馬の主人が出てくるところです。馬の主人に、ガリヴァーが自分の国の政治制度について説明をするシーンがあります。ガリヴァーはとことん理詰めで説明しているつもりなんだけれど、フウイヌムの馬の主人に、言い返されるわけじゃなくただ質問されるんです。「なんでそれは必要なんだ」と。それに対してガリヴァーは「こうで、こうで」というように説明します。馬の主人は「そんなものはいらないでしょう」というように言います。それを読みながら考えると、Aくんが言っていたように、私たちの身の回りには、人間というものが理性だけで合理的に理屈だけで理解して行動しているだけなら必要のないものがたくさんあるんですよね。フウイヌムの国の馬たちは理性しかないんです。感情もないんですよね。愛情もないんですよね。夫婦間で結婚しているのも、子孫を残すということだけで、恋愛感情とかはないんじゃなかったんでしたっけ。とにかく、感情というものを抜いた存在がフウイヌムという馬なんです。確かに、人間が歴史や制度をつくってきたけれど、それって人間が理性的であるという前提で考えている風ですけど、実はそうじゃないなと思いました。面白かったのは、ガリヴァーはヤフーという野蛮な生き物と同じように扱われるわけです。ガリヴァー自身は「あいつらとは違う」と言うんだけど、周りからは同じだと思われています。最後の最後に、馬の主人から「自分の国に帰れ」と言われます。それは、フウイヌムの国で、他の馬たちから「あいつはあんなヤフーを飼っている」と言われる、「あんな野蛮なやつを飼っているのはおかしい」と言われて、置いておくわけにはいかないとなります。最後には泣きながら島から出てきます。泣きながら船に乗っているガリヴァーに対して、すごく仲良くなった馬が声をかけます。その時に。「なんとかのヤフーくん」と呼びかけるんです。とっても仲が良かった人も、ヤフーとしてしか見ていなかったんです。そして自分の国に帰るんだけど、ガリヴァーは奥さんや子どもの匂いが嫌になって近づけなくなるんです。最初は馬の国に行った時には「馬の匂いがだめだ」と言っていたんですよ。でも、いつしか、馬の匂いを好きになっていて、逆に人間の匂いがダメになっている。一緒にご飯も食べられなくなっている。別な部屋で過ごすようになり、唯一の慰めがイギリスにある馬の厩舎に馬の匂いを嗅ぎに行くことになるんです。なんだかそれが…怖いとは思わなかったんだけど…人間が理性的であると思っていることへの自己批判というかそんなことを感じながら読みました。あとはガリヴァーのキャラクターです。なんでそんなすぐに出て行っちゃうんだろうというか、冒険が好き過ぎるというか。とにかく毎回死にそうな思いをするのに、また出かけてしまう。
D:懲りないですよね。
E:そんなことを繰り返すんだけど、最後は出かけないんですよね。最後旅に出たいとはありません。その辺りのガリヴァーの変化も面白いと思いました。岩波少年文庫を読んだ人がいるかなと思ったのですが、いなかったので比較はできませんでしたね。
A:私は改めて考えても怖いですね。Cさんが言っていたように、解説も面白かったです。私は岩波の解説を読みましたが。スウィフトは最後に狂人となったと書いてありました。それは『ガリヴァー旅行記』を読んでいても、この本を書く人は狂っていきそうだと思いました。女性に対する屈折した感じ、家族に対してというのかもしれませんがそこも作品を読んでいる時にも強く感じました。あとは『ロビンソン・クルーソー』『ユートピア』を読んでみたいと思いました。
E:『ロビンソン・クルーソー』はほぼ同時代ですよね。これのちょっと前ですよね。
A:読まなきゃなぁと思いました。カレル・チャペックの『ロボット』を読んでいた時にも『ユートピア』が出てきました。やはり『ユートピア』は読んでおいた方がいいんだなと思いました。
E:『ユートピア』は薄いですよね。
A:そんなに厚くなかったように思います。
E:あれは安楽死が認められている国の話なんですよね。
A:へ〜。
F:へ〜。
D:へ〜。
A:お互いの感想を聞いてどうですか?スウィフトがどんなことを言いたかったのかについてでもいいですし。
G:私たちが読んだのは一部と二部なので、三部四部は全然違うんだなと思いました。一部二部だけだと、なんだか明るくて楽しい感じがしたんですけど。三部四部は違うんだなと思います。
E:誰がそうしたんでしょうね。子ども向けにつくった人はすごいなと思うんですけど。
A:良かったか悪かったかでいうと、私は子ども向けにして良かったんだろうかと思います。
E:でも確かに、前半の一部二部と後半の三部四部が違い過ぎるから。前半の一部二部だけ表現を変えれば子ども向けになるな、と思いますよね。
D:短いバージョンでは、一部の最後にガリヴァーは処刑されそうになっているんですか?私の読んだものでは、餓死するのと目を潰すのをどちらにしようということになります。それも短いバージョンにもあるんですか?
G:目を潰すということは…なかったように思います。
E:小人の国で、お妃さまの家が火事になって、それをおしっこをかけて消すというのはありますか?
D:ふふふ。
G:そういうのも出てこないですね。
E:やっぱりそうなんだ。巨人のガリヴァーがおしっこをかけて、それで処刑されるに至るんですよね?
D:そうですそうです。
A:それも理由の一つなんですよね。
E:そういうのもないんですね。
A:王様のところでおしっこをしちゃいけない、という法律があるんですよね。
E:王様は「火事を消してくれたから…」と言うんだけど、お妃さまが「こんなの考えられない」と言うんだよね。
D:そして、暗殺を目論む海軍の人かな、がいるんですよね。
E:その前あたりにある、大きい方をしたくなっちゃってどうしよう、といったくだりもあります。そこも子ども向けにはカットされていそうですね。どうやってしたかも詳細に書かれていますもんね。
C:結構、糞尿関係というかすごい多いよね。それも解説にありました。
E:『ガルガンチュアとパンタグリュエル』というフランシス・ラブレーが書いた有名な小説があります。その人が糞尿もので全編通して書いているんですよね。昔の小説って、それらが「汚い」「なんで」というふうにではなく、「それが文学だ」と思われていたんでしょうね。だから『ガリヴァー旅行記』もそうなのかなと思いました。
A:解説に書いてありましたよね。その辺りについて。
C:書いていました。匂いとか、糞尿とか、そういうのをやたらと書きたがるというのも、彼のエキセントリックな部分が表れていると平井正穂さんは書いていました。
A:「人間が腐敗して汚れきっていることを徹底して風刺したい」ということみたいです。
F:私の解説にも書いてあります。「この作家は元々醜悪なものへの興味が強いらしく…タブーをおかすことにもあえて喜びを見いだすタイプだった」とあります。
C:はい。「こんな表現をすることを読者にゆるして欲しい」と書きながら、めちゃ嬉しそうに書いていますよね。「本当は書きたくないのだが…」と書きながら、喜んでいます。そういう感じなんですよ。
A:1篇2篇だけを子ども版にするのが果たしていいことなのか、と私が思う理由は、1篇2篇にも同じように作者のメッセージは込められているわけです。隠されているかもしれないけれど。芥川龍之介ならそういうことをしそうだけど、悪気なく短くしてしまったのだとしたら…ちょっと嫌だなと思います。
E:もうこんな時間ですね。
A:そろそろ次のことを考えないといけないですね。
E:次のを探すのに時間がかかるから。
A:次をどうしようか、ですね。『ガリヴァー旅行記』については、話したいことがたくさんありすぎて…。
C:ジブリの宮崎駿も高畑も、もちろんこれを読んでいますよね。ラピュタが出てくるわけだから。なんだか『天空の城 ラピュタ』のセリフの中に出てくるらしいんですよね。「ガリヴァーはこう言ったけど…」というようなセリフです。
F:へー。
C:僕はそんなことは知らなかったんだけど、Amazonレビューに書いてありました。『天空の城 ラピュタ』の一節に『ガリヴァー旅行記』が引用されているらしいです。
E:ラピュタを自分のものにしようとした男の人いますよね、あの眼鏡の。あの人が最後にいうはずですね。
C:そうなんだ。ジブリってスウィフトから学んでいるんだなと思いました。ファンタジーの中で現実を批評するっていうことです。『風の谷のナウシカ』もファンタジーで環境問題を扱うわけです。『平成狸合戦ぽんぽこ』も環境問題についてです。環境問題が多いですね。いずれにしても社会を風刺しています。『崖の上のポニョ』は少子高齢化とか言いますよね。『ガリヴァー旅行記』はそういう手法の原点の一つなんだろうなと思いました。
A:次はどうしましょうか。もしGさん読みたい本があればいかがですか?海外の古典、日本のものでも構いませんが。古典で読んでみたいものがあったら。
G:古典ですか…。古典といえば『源氏物語』はちょっと長いでしょうか。
E:『源氏物語』ね。長いんだよね。
A:読んでみたいですね。
E:長いんですよね?
A:確かすごく長いはずです。
E:でも、世界文学に関わる本を読んでいると、海外の人たちの書いたものでも『源氏物語』は載っているんです。世界から見ても、1200年代にあの物語を書けていることは珍しいらしいです。
D:へ〜。
E:どこかで読みたいですね。
D:「青空朗読」という青空文庫を朗読版にしたものを調べているんですけど、『源氏物語』はタイトルごとに分かれてありますね。与謝野晶子さんが訳したものみたいです。
E:池澤夏樹さんの訳で、9巻セットですね。
F:漫画は読んだことある。
E:海外の古典でありますか?
G:海外ですか…。うーん。シェイクスピアとか?
E:シェイクスピアはこないだ読んだんですよね。三つだっけ?
F:二つじゃなかったでしたっけ?
A:そう。二つ。
E:『マクベス』と…。
A:『お気に召すまま』ですね。
E:悲劇と喜劇をひとつずつ読んだんですよね。
G:なんでしょう。
A:『ガリヴァー旅行記』の続きでいうと、『ユートピア』を読みたいですね。
E:トマス・モアですね。
F:あ〜。
C:読んでみたいけれど、長さはどうでしょうかね。
E:めちゃ短いはずですよ。
A:初心に返って『やし酒飲み』も。
E:これね。
A:手元に置いているじゃないですか。
E:希望のない話でよければ、年末に読んでびっくりした『フランケンシュタイン』がおすすめです。
C:あれはいいですよね。僕も読みました。
E:『メアリーの総て』という映画があります。メアリーは『フランケンシュタイン』を書いた人なんですけど。『ガリヴァー旅行記』と同じく、『フランケンシュタイン』も僕たちが思っているものと全然違うんです。
A:へ〜。
E:とことんまでに悲しい話なんです。
C:そうだね、切ないです。
A:どの訳を読めばいいんだろうと思っていたことがありました。
E:一番新しい光文社古典新訳文庫を読みました。あれを当時の18歳の女性が書いているというのが衝撃的です。映画とともにみたからよかったのかもしれないけど。映画も良かったですよ。エル・ファニングがメアリー・シェリーを演じているんです。
F:かわいい人だ。
E:面白かったです。映画は感動作です。『フランケンシュタイン』はものすごく悲しい話です。
A:Dさんは読みたい本はありますか?
D:今は思いつかないです。色々あった気がするんですけど…。考えておきます。
E:あとは、年末には『失われた時をもとめて』を少し読みました。全13冊ですが。あと、二十世紀の大ベストセラーと言われているのが『ユリシーズ』ですよね。
D:ジェイムズ・ジョイスですね。
E:読みましたか?
D:読みました。けどだいぶ昔の話なので忘れています。
E:あれはひどいでしょう。
D:あれはひどいですが、ケルティックですね。
E:なんであれが代表的な世界の古典になったのか…。
D:あれは、ケルトの文様とリンクしているんですよね。終わりも始まりも。
E:書き方が尋常じゃないですよね。
D:訳もすごいですよね。
E:半分くらい註なんですよ。このくらい。
C:なんじゃそら。
E:註を読まないと何を言っているのか全然わからない。
F:へー。
E:なおかつ『オデュッセイア』という古代の作品をとことんまでに分解している。各章のタイトルが『オデュッセイア』のタイトルなんですよね。でも、『オデュッセイア』を読んだけれど『ユリシーズ』は全くわからない。
A:『ユリシーズ』にするには長すぎるかなと思うんですけど。
F:長い長い。
E:取り上げない方がいいと思います。
D:これはきついと思います。
F:私なんて「0歳児でもわかる相対性理論」という本を読んだんですよ。
D:すごい。
E:そういえば、Fさんが勧めていた本、買ってきましたよ。Cさんも勧めていたやつ。
C:『フェルマーの最終定理』ですね。サイモン・シン。あれは面白いですね。
E:でも小説ではないからなぁ。『ユートピア』いいけどね。
A:今のところ『ユートピア』でしょうか。
C:次回じゃなくてもいいけど、ジョージ・オーウェルやったらいいかなと思うんです。
E:『1984年』?
C:『動物農場』か『1984年』かどちらか。どっちでもいいと思うんだけど。
E:『1984年』は長いんじゃなかったっけ?
C:長くないような気がします。僕は『1984年』は英語で読んでいるんです。数少ない英語で読んだ本なんです。
E:『動物農場』は短いですよね。
C:同じくらいだったような…。
E:『1984年』はすごく長かったような気がします。
A:私も、一度読み始めて、途中で図書館に返した気がします。
D:382ページとありますね。
C:そっか、結構ありますね。じゃあ『ユートピア』とかの方がいいのかな。
E:『動物農場』は…。
A:ジョージ・オーウェル、読みたいですねぇ。
C:『1984年』がより現代的であるかなとは思いますけどね。歴史を修正していく部署が「真理省」と呼ばれていたり、戦争を遂行するところが「平和省」と呼ばれていたり。本当に今の政治と同じなんですよね。そんなのが好きで、やはり古典だなと思うんです。
E:『動物農場』だと、254ページとありますね。
A:そちらの方が短いですね。
C:『動物農場』は、独裁の話なんです。豚が権力をもっていくという、おそらくナチスのことなんですよね。
E:では、馬から豚に行くことになりますね。『動物農場』はどうですか?
A:『動物農場』にしましょうか。
C:面白いですよ。両方とも名作です。ちなみにイギリス人です。
F:まだヨーロッパに留まっていられる。
E:漫画版があるんですね。石ノ森章太郎、ちくま文庫から出ています。じゃあ『動物農場』にしましょう。いつにしますか?
…
A:1月18日(月)16:00〜17:00でお願いします。