みらいつくり大学校企画
第18回みらいつくり読書会@zoom
【課題図書】
ディケンズ『クリスマス・キャロル』
【実施日時】
2020/12/14 16:00〜17:00
【参加者】
A,B,C,D(+ラジオ参加1名) 全5名
【内容】
A:今日は『クリスマス・キャロル』ですね。みなさんの周りではクリスマス感は増してきていますか?
B:クリスマスツリーを出したりしていますよね。
C:うちは、音楽プレイヤーを10何年ぶりに変えたんです。スマホと連動できるものにしたので、ずっとクリスマスカフェBGMがかかっています。
A:そうなるとだいぶ高まってきていますね。
C:高まっています。
B:Cさんの家のクリスマスツリーはいいですもんね。あれはすばらしいですね。
C:毎年3月くらいまで出しています。年の半分くらいは…。
A:今回はみなさんどの訳を読んだでしょうか。
C:訳はどのくらいの種類があるんでしょうか。
A:私の調べによると3つくらいあるようでした。
C:3つありますか。僕はこれを読みました。村岡花子さんが訳したものです。これは『花子とアン』の花子さんですよね。
A:そうと思います。
C:『赤毛のアン』の訳者ですよね。
A:私は、Cさんがそれを読むと話していたので、別のものにしようと思って、中川さんの訳を読みました。集英社から出ています。酒井駒子さんの表紙がついていました。
C:誰ですか?
A:『ビロードのうさぎ』という絵本が有名でしょうか。その方が表紙を書いています。
D:へ〜。柔らかい感じ。
C:調べてみると、たくさんありそうですね。
A:私が見たのは3つでした。
C:光文社古典新訳文庫からも出たんですね。
A:集英社、光文社古典新訳文庫、そしてCさんが読んだのは新潮文庫ですよね?
C:僕のは新潮文庫です。
A:その3つかなと思っていました。
C:光文社古典新訳文庫は、時々全然良くない訳がありますよね。論争になるくらい…。どの作品だったかな…。
A:なんだか攻めた訳をしているイメージがあります。
C:『若草物語』を読んだんだけど、無理と思いました。誰が喋っているかわからなくなってしまいました。
B:ふーん。
C:そういうこだわりにしたのかもしれません。でも、誰の台詞かがわからなくなってしまったんですよね。
A:そういえば、古典新訳文庫の…『文学こそ最高の教養である』という本を買いました。
C:手に取ったけど買いませんでした。買ったんですね。
A:読書会にいいかなーと思ったんですよね。特にアフリカ文学のおすすめが載っていたので、買ってみました。
C:『崩れゆく絆』でしたっけ?
A:そうですね。全然私たちが読もうとしている作品とは違うんだなと思って…。
C:やし酒?
A:そう、『やし酒飲み』は載っていません。
C:多分それは入りませんね。
C:Dさんは得意の岩波少年文庫ですか?
D:それが、今回は別の得意な青空文庫でした。
B:青空文庫にあるんですね。
C:そうなんだ。
D:ありました。でもすごく古い訳でした。第二の妖精でくじけました。
A:妖精なんだ…。
D:精霊でした。
B:幽霊じゃないんですか?
D:幽霊じゃなくて精霊と訳されていました。
C:ほ〜。
B:なんだろう、ゴーストなのかな…。
D:すごく訳が古くて、ディズニーの『クリスマス・キャロル』は家にあるので、観ていたので、忠実に書いてあるなと思いました。
A:Bさんは新潮文庫ですか?
B:僕は岩波少年文庫を読みました。図書館で結構借りられていたんですよ。こういう時期だから。そしてあまり人気のないであろうものが残っているから…。
C:人気ないんだ。
A:人気ありそうだけど。
B:多分人気ないと思います。だって残っていたから。確かに古い感じはしました。訳の調子というか。
C:何ページくらいありますか?
B:手元にないのでわからないのですが、200弱のイメージです。
C:へ〜。そうなると珍しく全員違う訳で読んだんですね。
A:そうですね。
C:もう一つ、なんとかけいいちろうさんという人が訳しているものがありそうですね。これだけちょっと値段が高いです。なんででしょうか…。
A:字がすごくでかいとかいうことじゃないでしょうか。
D:ははは。
B:あれはすごかったですね。
C:アメリカ版の挿絵が入っているとあります。絵本に近いのかもしれません。解説が後ろに37ページついているようです。そういうことみたいです。
A:私の読んだ集英社も、巻末の解説が多く見えたんですよね。
C:解説多いんですか?
A:少なくとも新潮よりは多かったんです。
C:新潮文庫は2ページでおしまいです。村岡さんが書いています。ほぼないに等しいですね。
A:感想を話していきましょうか。
A:そういえば今日は黒板がないんです。緑を塗り直してくれています。
A:私は読んで楽しかったです。過去の精霊が出てきたあたりから、次はこうなるよな、と想像しながら読みました。解説で中川さんが書いていたのは、ディケンズは作品に子どものころの自分を投影させていたということでした。『クリスマス・キャロル』には、運命への反抗、人間のつくった制度への批判、それらが含まれていると書いてありました。子どもがテーマになることが多いけれど、それは、子どもの置かれている環境がいつの時代でも逆境で、不条理の中にあるからだ、ともありました。子どもたちには可能性がある、そんな主張があるようです。特に、当時のイギリスの児童労働の問題に関する批判も含まれています。よく児童労働の問題について書かれたり映画などで描かれたりするとき、靴墨工場が出てきます。ディケンズ自身も靴墨工場で働いていた経験があって学校にもしっかりは通っていなかったようです。過去の精霊とのやりとりの中で、一瞬、学校が出てきます。でもその書かれ方は良いものではありません。その悲惨さも描いていると書いていました。「いつの時代も子どもが逆境に置かれる」というのは確かだな、と思いました。新自由主義的な学校のあり方においても子どもは悲鳴を上げているだろうし、コロナの時代における学校においても子どもたちの状況を想像すると大変だろうと思います。この本を読み終えて、ディケンズはそんな子どもの現実とクリスマスを結び付けて物語にしたんだなと思いました。仕事頑張ろうと思いました。そんな感想です。
D:最初にディズニーの『クリスマス・キャロル』を観た時にはわかりやすい話だなと思いました。悪い人が改心する話です。自分の生い立ちを振り返りながら未来を見ていきます。今回青空文庫で読みましたが、映像で楽しみたいなと思うシーンが多かったです。青空文庫の表現が難しいからなのかもしれませんが、まず第一の精霊が頭に何かをつけているのがよくわからなかった。この漢字どうやって読むんだっけ?と思いながらでした。表現や漢字が難しかったので映像で見たいと思いました。エンターテイメントとして楽しめる映画だと思いつつ、昔の時代って子どもが悲惨な状況に置かれています。女性に対してもそうです。そうかと思いつつ、この話がクリスマスである必要ってあるのかな…と考えました。ヨーロッパではクリスマスを大切にしていて、人間が変わる日なんだろうとは想像しましたが。いろいろ考えましたが、幸せが一番ということでしょうか。
A:クリスマスじゃないと成り立たないんじゃないですか?
D:本当?そうかな。
C:僕は、全然面白くなかったです。最近読んでいる他の本とのギャプが大きかったのか、いつかどこかで面白くなるでしょうと思いながら読んだんですけど、ついに最後まで面白くはなかったです。何ででしょう。1800年代の半ばですよね。時代的にはヴィクトリア朝とかいうらしいんですけど。この辺りで小説が文学表現の中心となってくるらしいです。寓話ではあるけれど、ストーリーをあまりにもわかりやすくしすぎていると思いました。第1、第2、第3というようにです。何となくうーんと思いました。文章の書き方では、時々人間じゃないものが擬人化されています。そんな表現がありましたよね。今まで読んでいた作品ではそういう表現が少なかったので、最初はおおっと思いました。そんな表現が多くなかったですか?擬人化表現が。若干邪魔くさい感じもしました。
B:「ドアノブのように死んでいる…」というような表現でしょうか。
C:それはドアノブに例えたんだけど、まるで物が人になったかのような表現が多かった気がするんです。
B:イギリスの文学の伝統…というようなことをディケンズ自身が書いていましたよね。「ドアノブのように、と書くことを許して欲しい」というように書いています。イギリスの文学の癖なんだ…とか。C.Sルイスの『ナルニア国物語』も比喩表現が多いですよね。やはり似ているなと思いました。ルイスがディケンズを踏襲しているんだとは思いますが。時代でいうと。
C:ちなみに、幽霊は三つ、三人いますよね。三つに試されて変わっていくと聞くと、「荒野の試み」をどうしても想像してしまいます。関係ないのでしょうか。
B:そういうこともあるだろうと思います。この話全体が「ザアカイの物語」の再解釈として捉えることができると思いました。福音書に書かれている話です。「金持ちとラザロ」の再解釈とも取れると思っています。なので、わりかしキリスト教的な話法に沿った物語方だと思いました。
C:障害のあるお子さんを出してくる感じ、結局は死ななかったんですよね。幻で見せられたけれど、スクルージが改心したから変わったんだということなのでしょうか。でも、本当は死んでいなかったと書いてあります。確かに最後の幽霊のシーンで、子どもが死んだということはわかりにくいんですよね。ティム坊はいないんだね…というくらい。ティム坊が死ぬシーンはないし、誰かがそれを語りもしない。読者が「いないのかな」とわかるように書かれているくらいで、本当は死んでいなかったということを言いたいのか…。その辺りがわからなかったです。最後の方は、スクルージに関して教訓めいているというか「お前こんなことをしていたらこんな死に方するぞ」「だから改心しなさい」、それってどうなんだろうって思いました。所々、この文章面白いなと思うところには折り目をつけながら読んだんですけど…。その辺りは時間があれば共有します。
B:僕は好きでした。お説教くさいといえばそうなんですけど、それは僕らがそういうものを聞きすぎているというものあるし、日本昔ばなしとかにも通じますよね。こぶとり爺さんみたいに。お説教くさいといえばそうですけど、キリスト教的な精神という意味では、ザアカイ的でもあるし金持ちとラザロのような話でもあります。それらがクリスマスというキリスト教的な時期やイベントとからめられているのがその通りだと思いました。あとがきが面白かったです。この作品が書かれた時期というのが、マルクスが資本論を書いたイギリスなんですよね。ちょうどその時期らしいです。マルクスが大英図書館にこもっていた時に、ディケンズはクリスマスキャロルを書いています。この時期って、産業革命によって、社会が資本家と労働者という二つの階級に分裂した時期です。そしてディケンズ自身が父親の借金が払えずに監獄生活をしたことがあると書いていました。つまり労働者階級の辛酸を舐めた経験のある人物なんです。スクルージというのは資本家階級ですよね。その階級の分断というのを文学で縫い合わせようとしていたのかなと僕は類推しているんです。あとがきにはジョン・ウェスレーのことが書かれていました。1700年代にフランス革命が起きるじゃないですか。イギリスでは、労働者が王政を倒さなかった、つまり王様をギロチンにかけずに済んだ。それは、ウェスレーとかの働きが大きかったとも書かれていました。ウェスレーって、この時期なのかな?正確に把握はできていないんだけれど、1800年代後半だと思います。ウェスレーはキリスト教的な道徳に基づいて生きようぜと言った人です。労働者は真面目に働こうぜ、資本家はほどこそうぜ、と言った人です。そういうものがあったから、イギリスはフランス革命にまでは至らなかったという分析をする人もいるようです。ディケンズの『クリスマス・キャロル』はある種のウェスレー的なキリスト教精神の復古主義的な働きなのではないかということでした。ディケンズは、マルクスとは違うルートで、資本主義というものの矛盾を何とかならないかと考えた人なのかなと思って、僕は好きかなと思いました。話が薄っぺらいとか言い始めると、多分書いている人が読者をどこに想定しているかという問題にもなってきます。童話としてはこのくらいなんじゃないかなと思います。そんな感じでした。
A:お互いの話から考えたこと話せればと思います。Cさんが言っていた子どもが死んだかわからないという話題がありました。それに関わって思ったことがあります。私の読んだ訳だと、マーレイだけ亡霊と書かれています。それ以外は精霊と書かれています。三番目の精霊は子どもが死んだかどうかについてははっきりと言いませんが、自分自身が未来の精霊であることも言わないですよね。はっきりしない。
C:マーレイから言われたんじゃなかったでしたっけ?最初に。
A:そうでしたっけ?
C:スクルージが「あなたが未来の幽霊ですか?」と聞いています。
A:過去、現在、と来たから、次は未来だろうと考えたのかと思っていました。
C:ふーん。そうかもしれない。
A:おそらく未来であろう精霊は、全く自分自身のことは語りません。その辺りの書き方は面白いなとも思いました。
B:あー。一つだけ異質だということですね。
C:最後の精霊が語ることだけは事実じゃないということですか?
A:そういうことでもあります。
C:このままいくとこうなるぞということか。だから本当はティムが死んでいなかった、ということですね。
A:また、荒野の試みに似ているというのは、私もそう思いました。特に現在の精霊のスクルージに対する関わり方からそう感じました。海に行ったり、荒野に行ったり、飛んで行きますよね。その感じが聖書の記述を思わせるなと感じました。
B:『神曲』とかも意識されているでしょうか。
C:ダンテですね。
B:そうです。『神曲』は1400年代ですからね。イタリアはカトリックですし、イギリスは英国国教会なので、伝統も違うのかもしれませんが、影響があるように思いました。『神曲』って、ある人が煉獄というこの世とあの世の間にある場所に連れて行かれて、そこには今の世界では活躍しているけれど地獄で苦しんでいる人がいたりするのを見ます。そこには時事ネタも含まれています。イタリアで有名な金持ちが苦しんでいる様子が書かれています。その辺りの周辺知識がないとわからなかったりします。
C:昔の話は書かれていますよね。古代ギリシャとか。
B:そうですね。古代ギリシャの詩人とかが出てきますよね。
C:オデュッセウスとか。
B:ウェルギリウスとか。これがダンテの地獄巡りを導く人で…とか。そういう時代、色々な人たちがパロディ的に出てくるんです。その時に生きていた人たちも煉獄にいるのが書かれていたんです。その時の国会議員的な人がいたりするんですね。今でいうと「私が横を見ると麻生太郎が苦しんでいた」というようなことですよね。
C:麻生太郎の幽霊という感じなんですね。
B:だから『神曲』って面白いんです。それで、このスクルージの話には、煉獄感があるんですよね。時間というものを超越した、そんな世界から見たときに、自分の人生っていったい何なんだろうと考える、というようなことです。チクセントミハイが言っていましたが、ダンテの『神曲』って「中年の危機」として読めるらしいんです。そんな説があります。中年の危機の話なんだというのが、チクセントミハイの解釈なんです。実際に「中年の危機」に関わる大学講座があって、そこで『神曲』を教材にして話したらしいです。誰が共感してくれるかなと思っていたら、大好評だったと書いていました。やっぱり『神曲』は中年の危機だったと確信を得たらしいです。
D:「中年の危機」ってなんですか?
B:「中年の危機」というのは、年代はいろいろ言われるけれど、ライフステージが変わるときに、人が「人生ってなんだったんだろう」とか考える、という心理学用語です。そういう時期にある人たちはうつ病っぽくなってしまったりします。自殺する人がいたりとかそんな問題もあります。特定の年齢は気をつけなきゃね、ということですよね。今で言うと40歳というのは気をつけなくてはいけないと言われていますよね。あとは定年退職の時とかもそうですよね。スクルージはだいぶ歳は上ですけど、中年の危機問題とかも入っていそうだと思いました。
A:難しいなと思ったところがありました。現在の精霊が語っている場面で、最後に男の子と女の子が出てきます。「無知」という名前の男の子と、「絶望」という名前の女の子です。これがわからなかったんです。色々なものを見て回って、帰ってきたときに会うんですけど。
C:ありました。そして男の子の下に、「滅亡」とあらわれるんですよね。
A:私の読んだものでは「破滅」と書いていました。
C:あったね。誰の子どもなんでしたっけ?
A:服の中にいたんですよね。
C:男の子、女の子、に例えているけれど、いわゆる人間の本質っていうことなんでしょうか。
A:そうなんでしょうか。
C:それを幽霊に見せられるんだけれど、スクルージはもう改心しかけているから「この子どもたちには救われる場所も救ってあげる人もいないのですか」と聞きます。そして幽霊は「監獄はないのかね」と答えます。これはスクルージが最初に言っている言葉です。「そんな子どもは監獄や救貧院に入れたらいいじゃないか」と。お前の言っているその子どもは、人間の本質なんだということなんだと思います。だからお前だってそういう運命だよということを言いたんだと思います。そして最後の幽霊に繋がっていく。
A:そっか。
C:だから男の子と女の子であるということにはあまり意味がない。例えているということなんじゃないかと思います。そのギャップにぎょっとさせようとしているんじゃないかな。
A:そういうものをスクルージに見せた、ということですね。
C:そして最後に「死」が出てきますよね。最後の幽霊のところで。「死」の描写ってすごいですよね。
A:どんなんでしたっけ?
C:最後の幽霊ってめちゃ怖いじゃないですか。
A:怖いです。
C:目も見えません。しゃべりもしない。途中で、死に対していろいろと言います。死んでいる自分をみて、霊の声が聞こえてきたというようなシーンです。ハイデガーじゃないけれど、将来の最終段階は死ですよね。それをみて怯えるというか、それがとどめのように書かれています。
A:最後の精霊に関しても、絵にできないと思います。映像化はどうやっているんだろうと思いました。最初の精霊も「子どものようで老人のよう」とかありますよね。変な書き方です。どうやって映像化するんだろうと思いました。
C:一番映像化が想像できたのは、鼻にたんこぶのついた男でした。
A:誰でしたっけ?
C:鼻にこぶが垂れている男っていましたよね。あいつ絶対映像化されていると思いました。
A:あーそれ。こちらの訳では変わった表現になっていたんですよね。
C:そうなんだ。
A:その辺りも面白かったです。
D:映画は1980年代と1990年代とあって、なおかつミュージカルでは市村正親さんが演じているようなんです。それはすごく面白そうだなと思いました。近年のミュージカルではホリエモンがやっているらしいです。
C:なんだそれ。
B:なにそれ。
D:スクルージなのか、プロデューサーなのかわかりませんが、『クリスマス・キャロル』の公演に関わっているようです。
C:いわゆるホリエモンは守銭奴みたいに言われていましたよね。そこを逆手にとっているんでしょうか。見た目もスクルージっぽくはないけれどあえてなんでしょうか。
D:今年のやつもチケットがまだありました。
B:知らなかったですね。
C:ディケンズの他の作品を読んだことありますか?
A:私はないです。
B:僕はこれだけですね。
C:僕は昔買って読もうとしましたが諦めました。この少し前の世代に小説といえば「三巻本」といって、厚い豪華な装丁のものを指していたようなんです。そんなものは庶民は買えないから、読むことができなかった。当時はそれを貸本屋が買って色々な人に貸すというビジネスをしていたんですって。だから貸本屋が作者にああすれこうすれという意見を言えるくらい力を持っていたらしいんです。そこでディケンズはすごく短い本を書いた。かつこの頃に雑誌という形態が出始めたらしいんですよ。雑誌に差し込む短い話としてディケンズがいくつか書いて爆発的に売れたということなんですね。安いから買えたらしいんです。
A:さらに分冊をして雑誌に載せていたと書いていました。
C:いわゆる連載ですよね。
A:連載で初めて多くの人が読めるようになった。
C:なるほど。ディケンズ、僕はだめでしたね。
B:C.Sルイスとかもあまりはまらないですか?
C:C.Sルイスは『ロード・オブ・ザ・リング』でしたか?
B:『ナルニア国物語』ですね。
C:ああいうファンタジーって長くて無理ですね。
B:僕はナルニアも同じ系譜っぽいと思うんですよね。それは文体だけではなくて、ナルニアという国に少年たちが行くことによって、ひん曲がった従兄弟のやつとかが真っ直ぐになったりすんですよね。アスランというライオンに出会って。なんかそういう感じが、イギリス文学の一つの型なのか…。
C:(ラジオ参加の方が)ナルニアが好きとチャットに書いてくれていますね。ナルニアはライオンがイエス・キリストなんですよね。ナルニアと比較していいのかわかりませんが、『ロード・オブ・ザ・リング』の方が好きですね。
B:はいはい。全然違いますよね。
C:そもそも『指輪物語』にははじめに『ホビットの冒険』があって、ずっとホビット族の説明なんかをしていますよね。それが中心になる話ですよね。『ナルニア国物語』にはそれがないですよね。いわゆる寓話性というか。
B:そうですね。
C:わかった。だから世界観というものをどれほど重視しているか、キャラクターを重視しているか、という違いなんだと思います。ディケンズの頃ってキャラクターがどう変わっていくかにシフトしていった時代なんだと思います。その前はキャラクターというよりはまず世界観があって、その中でキャラクターが動いているという発想なんじゃないでしょうか。世界観がなくてもキャラクターが何人かいれば成り立ってしまう。キャラクターを、当時のイギリスにポンと置いて小説もできてしまう。僕は、それらよりは世界観がある方が好きなんだと思います。
B:そうですね。それは作風の好みですね。そういえば、ルイスとトールキンは親友だったんですよね。毎週木曜日にはパブで飲んでいて。トールキンがもう諦めそうになっていたらしいんですよ。『指輪物語』を完成できない、と。そこで「君なら絶対できるよ」と言い続けたのがルイスだった。トールキンは完璧主義すぎて、『指輪物語』の舞台となる世界、その世界の歴史書や辞書や文化を書いているんですよね。自分で。小説には出てこないんですよ。そんなことをしていたら、舞台設定だけで10年かかってしまったんですって。本編1行もかけていないのに。こりゃだめだ、俺は死ぬな、と思って。
A:無理だと思ったんですよね。
B:そう、無理だ!と思って書いたのが『ニグルの木の葉』という短編なんです。それが泣けるんです。
A:めちゃいいんですよね〜。
D:へ〜。知らない。
B:泣けるんですよ。
C:トールキンの何?
B:『ニグルの木の葉』です。
A:『妖精物語について』という本に集録されているはずですよね。
B:僕も全集みたいなものをかりて読んだんです。
A:そう、全集みたいなやつにしか入っていないんです。私もどこかにあったはず…。
B:ものの数ページしかないはずです。
D:すぐ読める感じの。
C:『妖精物語について』ですね。知らなかったです。でも、その100年後に映画化した際、最後までいけたのは『指輪物語』で、最後までいかなかったのが『ナルニア国物語』なんですね。
B:皮肉なことにね。対象年齢が違うんでしょうね。『指輪物語』は深いじゃないですか。指輪って罪ですよね。あれを持っていられるのは弱きものだけなんだというのは思想性が強いんだけど…。
D:なんで罪を弱いものが持っていられるんですか?
C:弱さを自覚するということの大事さを言っているんですよね。
B:ホビットではない、力をもった種族がそれを持つとそれの虜になってしまうんですよね。
C:主人公がどんどんやられていく感じ。第三話になるともう何もやっていない。でも完全に指輪の虜になってしまって、最後の最後に、主人公の昔からの友達ででぶった人がいるんだけど、そいつが大活躍するところで泣けるんですよね。脇役としか思っていなかった奴が最後の最後で…。主人公はほぼやられているだけです。
A:久々に『指輪物語』を読みたくなってきました。
D:私も観たくなってきた。
C:Aくんは観たくなるじゃなくて読みたくなるんだ。
A:僕は読みたいですね。
B:スメアゴルっているじゃないですか。正気の時には「ご主人さま、仕えるでございますよ」なんて言っている感じなんだけど、夜になると目がいっちゃって、ついつい殺そうとしてしまう。もう分裂病、分裂していらっしゃるじゃないですか。
A:いわゆるね。
B:でも、彼が最後に一番大事なことをするんです。そういうのって、人間社会でもあるじゃないですか。職場で、なんでこの人いるんだろうって人が、実は大事だったり。そんな話でもあります。そういう意味ではトールキンの方が深いと思う。でも僕はナルニアもめちゃめちゃ好きですよ。何回でも読めます。僕の中の古典ですね。特に三巻と七巻が面白い。
A:私も大好きです。大人になっても読み返したのは『ナルニア国物語』でした。小学生の時に『ホビット』を読みましたが、それ以降は読んでいないから、ほとんど覚えていません。また読んでみたいですね。
A:年末年始にかけて読みたい本についても話したいんですけどいかがですか?
C:僕は絶対に主張したいんですけど『ガリヴァー旅行記』ですね。
D:『ガリヴァー旅行記』、言っていましたね。
C:絶対読んでほしいんですよ。
B:『ガリヴァー旅行記』は長いって言っていましたっけ?
C:430ページくらいですね。文字も小さい。
D:アフリカには行かないでアメリカに行っちゃう?
C:年末年始だから長いのをと話していましたよね。『やし酒飲み』は短いから。みなさん『ガリヴァー旅行記』読んでいないでしょ。『ガリヴァー旅行記』は絶対読んでいただきたい。本当は『ドン・キホーテ』なんですけど長すぎるから。6冊ありますから。『ガリヴァー旅行記』は少年版もあるじゃないですか。
D:岩波少年文庫。
C:予想通りDさんは子ども版でもいいですよ。
D:大好きな子ども版。
B:映画もありますよね。
D:ばっちりじゃないですか!
C:大人版がいいんですよ。
B:青空もありますね。
C:青空もあるんだ。でも古いですよね。
B:古そうです。Cさんが言っているのはどのやつですか?
C:僕のは岩波文庫です。平井正穂さんが訳しています。この方は色々とイギリス文学を訳しているんですが、この人の文章はすごくいいんです。岩波はすごくおすすめです。岩波、訳がちょっとと思うこともあるんですが、これはおすすめです。4つあるんです。第1第2が小人の国なんです。いわゆるガリヴァー旅行記です。そして第3がラピュタ。天空の島に行くんです。
B:元ネタなんですよね。多分。
D:ぽいですね。
C:そこに色々な研究所があって、研究をしています。それがとことん意味のわからないものなんですが、真剣に研究をしているんです。最後が馬の国に行く。そこでは野蛮な人間というのと馬が逆転しているんです。野蛮な人間は言葉もしゃべれなければ、他の人を蹴落としても自分だけは食べ物を得たいというような、それが「ヤフー」なんです。Yahoo! JAPANのヤフーはそこから来ているみたいです。
D:え!
C:知らないでしょ。ネットでわーっと探すことを言っているのか、わからないけど。
B:そういうことか。
C:そしてガリヴァーが4つの国を旅して、帰ってきて、どう変わるかという話です。尋常じゃない話です。なんで今までこれを知らなかったんだ、と思いました。
B:これはどこの国の作家なんですか?
C:この人はアイルランドなんですよね。
B:へー。アイルランド。『オズの魔法使い』も面白いですよね。いつだか読みました。10年近く前でした。あれは読むと本当に面白いです。よーく考えられているのがわかります。
C:『オズの魔法使い』はもっと前でしょうか。
B:『オズの魔法使い』はアメリカですから。カンザス州ですからね。竜巻ですから。
C:『ガリヴァー旅行記』は1900年のはじめですから、シャイクスピアのちょっとあとなんです。
B:超古いんですね。
D:へ〜。私、古くないんですけど、『フェルマーの最終定理』って本があって読みたいと思っているんです。
B:あれはめちゃ面白いですよ。
D:すごく読みたいと思っていて。
B:あれは人生ベスト10に入る面白さだと思っています。
D:私、数学は好きじゃないんですけど、よくわからないんですけど、数学界最大の難問があって、それが三世紀にわたって解読されたという話です。そういうのって解読できるんだ!と思って。
C:小説なの?
B:フィクションじゃないです。ノンフィクション。だから、サイエンスライターなんですよ。
D:でも人間ドラマって書いてあるから。
B:数式をほぼ使わずに、数学的概念を読者に伝えることに成功しています。もう天才だと思いますね。サイモン・シンは。
D:読みたい!と思って。
B:日本人の数学者で志村という人がいて、その人が一番重要な役割を果たしているんです。その人はプリンストン大学にいて、僕の弟はその志村さんに会ったことがあるんです。数学界では伝説の人で。フェルマーの定理で一番重要な一つのステップを前に進めたのがその人なんです。
C:面白そうではあるけど…。
B:ちょっと文学とは違うかなと思います。めちゃくちゃ面白いのは保証します。
A:私は、『失われた時を求めて』の第一巻を読む、というのはどうかなと考えていました。
C:そこにいっちゃうとすごいことになりますよ。
B:面白いんだろうなぁ。
A:それか、ちょっと戻るけれど『罪と罰』です。
D:ドストエフスキー。
A:読書会とうたって本になっているものがあります。有名な作家さんたちが『罪と罰』を読まないで座談会をして、そこで予想をしながら話す、という本がありました。そんな企画の本を読んだんですけど『罪と罰』は読んでおいた方がいいなと思ったんです。
B:僕は『オズの魔法使い』とかかな。さっき言ったように。面白いだろうなと思いますし。『ガリヴァー旅行記』には興味がありますね。『ドン・キホーテ』も興味があります。ホセ・ムヒカっているじゃないですか。世界一貧しい大統領。その人の本で、人生の座右の書の一つにあげていたんです。真っ先にあげていたんですよね。
C:『ドン・キホーテ』ね。歴史上の世界のベスト50とかで一位になるのは大体『ドン・キホーテ』なんですよね。
D:すごい。
C:そして『ガリヴァー旅行記』も大体入っている。
A:やはり『ドン・キホーテ』は難しいんですか?
C:難しいというか、6冊ありますからね。
D:長い。第三巻だけとか。
A:それだと話がわからないですよね。
B:あと、次回を来年くらいにする、というなら…。
C:ただ、こないだ本屋さんに行ったんです。『ドン・キホーテ』全6冊、前編3冊と後編3冊あるんですけど、3から6まで無かったんですよ。そこが空いていたから、誰かが買ったんだと思うんです。一人で「きてるわ〜」と思っていました。
A:誰も買わないから入荷されなかったんじゃないですか。
D:確かに。
A:1巻と2巻だけよく売れるっていうか。
B:もうそれは「流行っている」と認定できますね。
C:『ドン・キホーテ』は中世騎士物語をパロディしているんです。中世騎士物語の中でも一番素晴らしいとされている『ティラン・ロ・ブラン』というのがあるんですけど、それは4巻本なんですけど、それが平積みされていましたから、やっぱり「きているわ〜」と思いました。
A:それはもう流行っていますね。
B:来年「来る」でしょうね。
A:『ガリヴァー旅行記』は読めそうなくらいでしょうか。
C:結構長いけれど、面白いから読めると思います。
A:それを言い出すとなんでも当てはまってしまいますね。
C:まじで。読み終わったら人間が嫌いになっている可能性があります。
D:へ〜。
C:いいのかこれで!と思いますね。読めると思います。
A:『ドン・キホーテ』はさすがに長いかなと思うんですが、『ガリヴァー旅行記』なら頑張れるかなと思いました。
C:年末年始に読むのであればいい量だと思います。ただ、先に言っておくと、当時の小説そういうのが多いんだけど、おしっことかいっぱい出てきます。そういう感じです。
A:それは何に警戒して読めばいいんでしょうか。
C:そういうのが出てきても「うわ〜」とか言わないでねってことです。そこも含めて、ディケンズとは人間の汚いところの見せ方が全然違うんですよ。いわゆる精神的な汚さみたいのを出すディケンズと、人間ってそういうものだっていうことをとことん書いていくスウィフト。その違いがあるんです。
A:では『ガリヴァー旅行記』にしましょう。
C:やった!通った。珍しく。最近、僕の意見が通らないから。
A:「ちょっと暗いですね」とか言われますからね。
A:いつがいいでしょうか。
C:最初の週。
A:では4日の16時でお願いします。
C:しつこいですが、すごいですから。岩波がおすすめです。
D:ハードルは上がっています。
C:ガリヴァーは大丈夫です。
A:今回ディケンズを読んでいて、シェイクスピアの『ハムレット』がたとえに使われていました。
C:はいはい。あれはびっくりましたが本当ですか?
A:ん?
C:お父さんがはじめから死んでいるという話。
A:それは死んでいますよね。だから亡霊になって出てくる。
C:そっか。
A:殺されるところからではなくて、殺された後から始まりますよね。『ハムレット』は。
C:そうだったっけ?なんだか、僕らは死んでいないと思っていたけど実は死んでいたのかと思ったんです。例のファイトクラブ現象かと。
A:たとえに使われた「ハムレット」の言葉をみて、「読んだ読んだ」と思えたのが嬉しかったんです。
C:そう思えることがすごいですよね。
D:うんうん。
A:では終わりたいと思います。良いお年を。