みらいつくり大学校企画
第16回みらいつくり読書会@zoom
【課題図書】
シェイクスピア『お気に召すまま』
【実施日時】
2020/11/16 16:00〜17:00
【参加者】
A,B,C,D(+ラジオ参加3名) 全7名
【内容】
A:今日はシェイクスピアの『お気に召すまま』ですね。
B:今日はCさん読めましたか?
C:今日はとっておきのものを見つけたんですよ。見ますか?じゃん。『シェイクスピア物語』です。
D:おお〜。
B:何それ。
C:すごいでしょ。これに、なんと『マクベス』も『ロミオとジュリエット』も『ハムレット』も『オセロー』も入っているんですよ。
B:どういうこと?短くしているということ?
C:そうです。戯曲のあらすじをダイジェスト版にしたやつで。イギリスのラムさんという人が書いた本です。随筆家のラムさんという人が有名らしくて。それで、喜劇をお姉さんが、悲劇を弟さんが担当しているらしいです。
B:悲劇と喜劇で書き分けているんですね。
C:そうなんです。兄弟で書き分けていて、これを一冊読んだらシェイクスピアがなんとなくわかるんです。
D:すごいなー。
B:それって岩波少年文庫でしょうか。
C:そうです。岩波少年文庫。これで読めました。
D:それってセリフじゃないということですか?
C:セリフじゃないです。大きなセリフは出てきます。マクベスの時にある「きれいは汚い、汚いはきれい」というのはセリフが載っていました。それ以外は要約されてわかりやすくなっています。
B:『お気に召すまま』で何ページくらいになっていますか?
C:『お気に召すまま』で、20ページくらいですね。
B:その中には、歴史ものは入っていないということですね?『リチャード三世』とか『ヘンリー六世』とか。
C:入っていないですね。
B:前半が喜劇で、後半が悲劇ですね。歴史ものは入っていないんですね。でもいいですね、その本。
C:そうなんですよ。
B:読書会にダイジェスト版でのぞむって。どうなんだって話ではありますが。
D:良いと思います。セリフしかないからわからないけれど、情報量としては補ってくれるような気がします。今回、僕には訳がわかりませんでした。本当にずっと「早く解説が読みたい」と思っていました。「はよ終われ、はよ終われ」と思って読みましたから。何も把握できないので。解説を読んで、ああそういうことか、という感じです。だって変装をしたりしているんです。僕は「同じ名前の男女の双子だった…」という話なのかなとか想像しながら読みました。もどかしかったです。
A:私も今回が一番難しかったなと思いました。話の流れがいまいちつかめなかったです。特に理由もなく、オーランドやロザリンドは追い出されますよね。オーランドはまだ「相撲で勝ってしまった」という理由があるかもしれないけれど、理由がはっきりしないですよね。ロザリンドが追い出される理由として出てくるのは「あなたのお父さんが前の公爵だから」といったものだけです。理由や根拠がはっきりしないまま物語が進んでいく感じが得意ではありませんでした。
D:途中、森で出てくる人たちとかも訳がわかりませんでした。オードリーがどうのとか。
B:『シェイクスピア大図鑑』によると、図解があります。
A:難しかったです。あらすじは今回説明しなくて良いでしょうか。
B:そうですね。要するに、宮廷の場面があって、宮廷から追い出されていろいろな人が入っていく森の場面があって、それに恋物語が3つか4つか5つくらい絡むんですよね。最後に4組が結婚をしてめでたし。その中心がオーランドという主人公と、ロザリンドというもう一人の主人公がいる。そして先ほどあったような、ロザリンドが「ギャ二ミード」を名乗って男のふりをするんですよね。この話で一番面白いのは、男のふりをしたロザリンドであるところのギャ二ミードが、オーランドに恋をしているはずなんですよね。そんな男のふりをしている人が、女のふりをして恋の手ほどきをする、というのが面白いくだりなんですよね。尚且つ、シェイクスピアの時代に、舞台に女の人があがるということはなかったので、これを少年が演じているんです。少年が女の人を演じているんだけど、この役の人が男の人を演じて、女の人を演じる、といったように訳がわからなくなる。その話が中心にありますよね。というだけの話だと思いました。
A:私は、その設定ありきで書いているんだろうな、と思ってしまいました。
B:そんな批判が多かったみたいです。
A:そうなんだ。
B:「『お気に召すまま』というタイトルが、ぐちゃぐちゃな設定だけれど、どうとらえるかはお客さん次第でしょう、というようにつけられている」という人もいます。一時期、文学作品としての評価がとても低かったらしいです。でもその後でものすごくレベルの高い話なんだとなったようです。
D:なるほどね。
B:ただ、それでも設定はかなり強引ですよね。
A:みなさん福田恒存さんの訳を読みましたか?
B:僕は福田恒存さんの訳です。
D:僕もです。表紙が少し古いみたいですけど。中は同じだと思います。新潮文庫ですね。
B:この人の訳が一番雰囲気は出ると思うんですよね。
A:僕にとっては、初めての喜劇だからなのか、初めての『お気に召すまま』だからだからなのか、それとも初めて福田恒存さんの訳だからかわかりませんが、一番読みにくかったですね。
B:僕はシェイクスピアを読んだのは5作品目くらいです。ようやく楽しみ方がわかってきた感じです。ということで『お気に召すまま』が一番面白かったかもしれないですね。
A:そうでしたか。
B:登場人物が多いですよね。それこそ、男なのか女なのか途中でわからなくなってしまうから。そういうのもあったけれど、セリフの感じとか、恋の手ほどきをしているプロセスとか、そのやりとりとか、すごいなと思いました。今もある「入れ替えモノ」ですよね。「中が入れかわっちゃった、実は…」というやつですよね。
A:道化のタッチストーンってなんだったんでしょうか。最後までわかりませんでした。セリフも独特だし、「こいつなんだろう」と思っていたまま物語が終わってしまいました。
B:わからないですね。
A:この人のセリフは聞き流すというか、読み飛ばすというか、そんなふうに読んでしまいました。
B:もう人格があるのかないのかわからないですよね。
A:キャラクターがフワフワしていて、言葉遊びをしているんだか揚げ足取りをしているんだかわからない。でも、周りの人たちは「いいこと言うね」みたいに扱います。
B:最後結婚しますしね。
C:この本(『シャイクスピア物語』)では結婚するのが二組なんですよね…。
B:え〜。4組ですよ。そこまで要約しているんですか。
C:そう、要約して、いらない人たちも省いているんだと思います。
B:それもダイジェストなんですね、すごい。
C:さっきの図も「ああこんな感じ!」と思ったけれど、最後に「4組結婚」とあったので「え!あれ?」と思いました。
D:僕も二組しか把握していないんですよね。僕は二組だと思っていました。
C:二組ですよね〜。
A:Dさんは原作を読んでいるのに!
B:Cさんの本は、誰と誰が結婚しているんですか?
C:私のでは普通に…。
A:おそらくオーランドとオリバーですよね。
B:タッチストーンはもう出てこないんですか?
C:誰ですか?
B:タッチストーンという道化、ピエロみたいな人がいるんですけど。
C:出てきません。
B:出てこないんだ。主人公と一緒に逃げるいとこはどうですか?
C:いとこは出てきます。
B:シーリアですよ。
C:出てきます。
B:結婚しますか?
C:オリバーと結婚しますよ。
B:もう1組は誰でしたっけ?
A:フィルヴィアスとフィービですね。
B:そうですね、その辺りは省かれているんですね。
C:出てこないです。
B:すごいな…。
C:すごいです。でも男女の入れ替えというのは、ちゃんと書かれていますよ。男女の入れ替えをしながら演技をしていて、相手の気持ちをさぐるということは書いてあります。そこは省きようがないんですね。でもいらない人は省かれています。
A:フィービという人が、男装しているロザリンドのことを好きになるんですよね。
C:へ〜。
A:色々と複雑なんだけれど、ロザリンドは「あなたは、このような条件がかなったら、あなたが本当に好きであるであろう人と結婚するんですよね」というようにフィービを説得するんですよね。蓋を開けてみたら4組のカップルができている、それが種明かしみたいになって楽しい劇なんですよね。多分。
D:そういうことかー。だとしたら、吉本新喜劇みたいな感じなんですね。
B:そうそう。
D:新喜劇っぽいですよね。最後大団円を迎える感じとか。
B:吉本新喜劇だったら、山田花子がロザリンドを演じますね。
D:あ〜。新喜劇だと思えばいいんですね。「おいでやす」みたいにギャグをかましながらみんな入ってくると思えば楽しいんですね。
A:そうかもしれません。
B:喜劇だから、新しい人が登場したときには「アッハッハ」と笑うと思うんですよね。だから道化としてのタッチストーンが出てくるんですよ。そこにジェイキスというツッコミの皮肉屋がいます。
D:役回りがそれぞれあるということですね。なるほど。
B:そしてそのジェイキスだけ森に残るんですよね。他の人は宮廷に戻るんですけど。
D:狂言回し的な人がいるんですね。リア王に出てくるホレイショでしたっけ?これも狂言回しなんですよね?
B:ホレイショは『ハムレット』じゃないかな。
D:『ハムレット』でしたか。そういう役の人を置くんですね。シェイクスピアは。
B:置くというか、演劇はみんなそうですよね。みんな訳がわからなすぎると良くないから。まともな人を置く、だから他の人が面白くなる。『ハムレット』は最後悲惨ですもんね。Aくん読んだんですよね?
A:読みました。
B:もうなんか「そして誰もいなくなった」的ですよね。
A:『お気に召すまま』の内容はそんな感じで押さえられたかと思います。福田恒存さんの解説にも書いてあったと思いますが、森と町、町という言葉は出てきませんが、森と公爵たちの住んでいるところが場面として対比されています。そしてこの物語はあくまで「森で起きていくこと」なんですよね。森だから不思議な力が働く。第一幕の途中で出てきるロザリンドのセリフが重要かなと思いました。「運命と自然」が対比されているセリフです。第1幕第2場―2なんですが。私の本でいうと19ページにあります。シーリアとロザリンドが語るシーンです。美しい人は心が醜いし、心がちゃんとしている人はたいした器量を持たない、というようなことを言います。これも前の『マクベス』で話題になったところの内面と外面の話かなと思います。そんな比較をしつつ、さらに自然と町とを比較しています。今でいう「自然と都市」といった比較にあたるのかなと思います。自然に注目して、森が不思議なことを起こしていく。つまり人間の意図を超えたものとして森が描かれているのかなと思いました。
D:面白いですね。「森」が大切なんですよね。今回僕は『快読シェイクスピア』という本を読みました。河合隼雄さんと松岡和子さんが対談している本です。だいぶさらっと読みましたが、やはり河合隼雄さんの言うことは面白いです。この本の中で「森」の話になった時に「日本人は森を知らない」と言うんです。日本人は森と聞いて山を思い浮かべる、と。本当の森は平らなんですね。確かにそうですよね。日本は巨大な火山だから、山じゃないところはありません。だけど、ドイツの森とかはずっと平らな森が続いているんですよね。それを日本人は地理的に想像できないようです。河合さんはドイツで、松岡さんはイギリスで、実際に森に行ってみたようです。そうすると、今まで森を知らなかったと思ったようなんです。魑魅魍魎が跋扈する。森というのは人間をおかしくさせる、そういう場の力というか、そういうものを森がもっているという感じがわかるんだ、と言っています。どこまでも続いているから。坂道ではないですからね。魔女裁判なんかの時代にも、「森に魔女が住む」というイメージがあったりします。そういう「森」が物語の中心にあるんだなと思いました。
B:ちなみに、ストーリーの確認なんですが、お兄さんのオリバーが主人公のオーランドを追放しますよね。後半になって、突然オリバーが森の中にやってきます。実は向こうでライオンに襲われたんだ、というような話をしますよね。そして弟が怪我をしたというような時の前に、和解はしているんですよね?殺そうとして追放した人がどこでどうやって和解したのかなと思ったんですけど。
A:それも書かれていないように思います。私は、ライオンから助けてくれたから仲直りをしたんだと思って読んでいました。
B:あ〜。弟を殺そうとしたお兄さんだったけど、ライオンに襲われている時に弟が助けに入ったから、ということですね。
C:うん。その時に、オーランドはその時に片腕を怪我したとありますね。それを見てオリバーはオーランドに救われたと知ったとあります。
B:了解しました。
D:それ(『シェイクスピア物語』)が一番わかりやすいと思うんですよね。
B:20ページだからね。登場人物は半分だし。
D:「変装した」とか書いてくれているんですよね?こっちなんて本当に訳がわからないんですよ。急に分裂したの?と思います。怖いんだから。
B:そう。仮装しているのに名前は変わらないですもんね。
D:変わらないんですよ。「あなたのことが好き」と言っていた人が、「全然好きじゃなくなるかもしれないけどね」みたいに言います。解説でわかったんですけど、あれは試しているんですよね。こんなひどい女ですよ、と。その時は男装しているんだけど。突き放して愛を試しているんだって書いてありました。「そういうことかよ」と思いました。
B:そこ面白いじゃないですか。…あれ?
D:面白い?まあ面白いけど…。
A:私は解説も読んだはずですが、なんで男装をしているのかはわかりませんでした。
D:そうです、そこでなんで男装したんだろうと思いました。
B:違いますよ、男装しているのは、ロザリンドがシーリアが追われているからです。発見されたらまずいですよね。だから男のふりをして逃げているんですよ。
C:そうです。お城から出る時にもうすでに男装をしています。
A:でもシーリアは男装しませんよね。
B:シーリアも男装しているよ。
C:シーリアは女装ですよ。若い娘の姿のままです。だからお兄ちゃんと妹として逃げるんですよね。
A:そうそう。
D:あ〜。そういうことね。
B:そうか。つまり変装はしたんですよね。
A:ロザリンドは背が高いから…とありましたっけ?
C:そうそう。
A:だから男のふりをできるんですよね。
B:そうだそうだ。そして、相撲の時に偶然会ったオーランドと再会しても「私はロザリンドです」とは言わないんですよね。
A:そこも謎でした。
B:「追われてきたから男装しているんですけど、実はこういう者です」と言えばいいのに言わないんですよね。
D:なるほどね。
A:そして変装したロザリンドは「恋の病を治したことがあります」と話し始めるんです。「私を本当に恋している相手だと思って振る舞いなさい。そうすれば恋の病は治ります。」というように言います。
B:本当は好き合っている同士がそういうやりとりをしているんですよね。それを面白いと思わないかな…。
D:面白いけど…。
A:この本は難しかったですね。
B:お互いに恋の手ほどきをして演じている時がありましたよね。ここ面白いと思って折り目をつけたんですけど、「時間の速さが人によって違う」という話があります。
A:はいはいはい。
B:こんなセリフの掛け合いが面白いなと思ったんです。時間っていうやつの進み方は相手次第で違うと。並足、跑足、早足、完全停止。それはCさんの『シェイクスピア物語』には無いですよね。
C:無いです。
A:絶対ないですよね。
C:書いてないです。
B:『シェイクスピア物語』はめっちゃ早足だからないですよね。跑足ってなんなの?とオーランドが聞くんです。ロザリンドは時間がなかなか進まないことを例えるんですよね。若い娘が婚約してからいざ式を挙げようとして、その間がたとえ7日間だとしてもその隔たりはおおきなものに見える、そこには7年の歳月が横たわっているように思える、と言います。まさにこの人たちのことを言うわけです。本当は今にも「ロザリンドです」と言いたいんだけれど言えないから。並足は、痛風を患っていない金持ち、と例えています。なんだそれって。早足は、絞首台へ引き立てられていく泥棒だと。
A:それってどこでしたっけ?
B:93ページくらいですね。多少はページが違うと思います。第3幕の12場です。完全停止が何かというと、時が完全に止まっているのは、休暇中の弁護士だって。これも意味がわからないですよね。裁判と裁判の間を眠って過ごすから時が経つのを感じないって。ちょっとよくわからないですよね。
C:へ〜。
A:ありました。
D:こういうのも、別の本で読みましたが、シェイクスピアは時事ネタをぶっこむらしいですよね。だから、休暇中の弁護士に関する事件が当時あったのかもしれないですよね。
B:かもしれないですね。
D:そうすると観客はわかっているから「ああ、あれね」となる。今でいう「これは例えるなら『任命拒否』だね」とかいうことですよね。でもその資料がないから、わからないんですよ。
A:我々にはわからないんですよね。
B:そうそう。
C:ふーん。
B:そうか、だめか〜。
A:最後、ロザリンドのお父さんとオーランドが、「そう言えば、ロザリンドに似ていますよね」と言い出しますよね。あれも「おもしろ」なんでしょうか。
B:だと思います。だって今まででもわかったでしょ、って感じですよね。
A:今更「面影があるな」と言いますからね。そこがこの劇の「おもしろ」ポイントなのかな、と思って一応線をひきました。
B:そうそう。そして、結婚する時は、自分のお父さんに了解を取らないといけないんですよね。だけど、自分の身分を明かす前に、了解をとっているんです。お父さんもわかる前に認めると言ってしまっています。父は、まさか自分の娘から確認されたとは思わずに、いいよと言っているわけです。そして明かされて「お前だったのか!」となって、娘は「結婚してもいいと言ったわよね」となります。
A:そうそう。
B:娘が種明かしをしないまま父に許可をもらう時に、観客は「プププ」となっているんですよね。
D:あ〜。
B:ずっとそういうおもしろさなんですよね。きっと。
D:そういうことか。
B:そして最後にロザリンドが観客に向かって話し出すんです。今まで劇の中だけでやっていただけのはずなのに、急に観客の方を向いて…。
A:口上を述べるんですよね。その時に「本当は男性が口上を述べるべきだけど…」と話すんです。
B:女だてらに…ですよね。
A:もう男なのか女なのかもう訳がわからなくなっているから、ここでも笑うんですよね。
B:それを男っぽくやるから、観客はわっと盛り上がる。でも演じているのは男の人なんですよね。
A:そうそう。
C:うんうん。
D:これを1600年ごろに書いているんですよね。関ヶ原のころに。だから、もう歌舞伎だと考えたらいいんですよね。歌舞伎も女装しますから。
B:そうですね。見たことがないからわからないけれど、歌舞伎にも笑いがたくさんあるんですよね。
D:そうですよね。そういうことですよね。口上もあるし。
C:芝居が情報伝達、とありました。殺人事件とか王様が変わったとか、そういうことを芝居の現場で伝えていたようです。そして芝居にきた人たちがみんなに伝えて街が活性化する。テレビとかラジオとか何もないから、違う町からきた芝居の人たちが「この国でこういうことがあったんだよ」と芝居を観にこれる市民に伝えたらしいです。そこから情報がさらに色々な人たちに広まったようです。
C:びっくりしたのが、シェイクスピアが死んだ年と徳川家康が死んだ年が一緒なんです。1616年。
D:へ〜とはならないですけどね。
C:あんな時代にね。シェイクスピアすごいですよね。
B:当時はお互いに知らないわけですからね。え!家康死んだの!とはなっていませんよね。
C:そうなんですけど。
B:後の人が知って、たまたまそうだったということですよね。
C:そうなんですけど。
B:ダイジェスト版なのにそういうことは書いてあるんですね。
C:そうなんです。
D:それが一番いいな。
C:すごくいいですよ。さっき『ハムレット』もこれで読みたいと思いました。これで読んだらすぐにわかりますよ。
D:いいわ〜。
A:前回の読書会を、私の中でまとめると「『マクベス』はファイトクラブだ」ということでした。
B:私の中というか、Dくんがそう言ってましたね。
A:前回の報告のサムネイルを作ったのですが、そこに載せました。
B:見ました。「『お気に召すまま』は吉本新喜劇だ」ですかね。
A:ファイトクラブ的要素って、今回の『お気に召すまま』にはあったのでしょうか。
B:ファイトクラブ的要素はないんじゃないでしょうか。いわゆる自分で気がつかないもう一人の自分、とかいうことですよね。
A:そうですね。
B:それ今回はないんじゃないですかね。意図的にやっているわけですから。別人格を意図的に演じているという、ファイトクラブの逆パターン、それはあるかもしれないですよね。ロザリンドが。
A:たとえば、今回でいうと、前の公爵の名前が無いですよね。
B:お父さんは名前がないんでしたっけ?
A:そうですね。前公爵がマクベス夫人的な役割を果たしているとか…。あとは、道化であるタッチストーンも、別なものでいう魔女的な役割を果たしているような気もします。他者として出てくるというか、運命を客観的に見ている視点として描かれているように思います。それは演劇だからかもしれないですが。
B:影のような感じですね。
A:そのように書かれているのかなと。
B:喜劇はそういうように書かれていないような気がします。わからないけど。そんなに複雑に読んではいけないんだと思います。
A:確かに。
D:喜劇はね。
B:舞台上でガチャガチャみんながやっているのを、観客が笑っているような感覚で読んだらいいんじゃないでしょうか。
A:その中でも、都市から抜け出て物語が展開されるというところで、都市に対する批判なのかと思いました。人間の力だけではなくて牧歌的な生活をしている羊飼達と、公爵達の生活が比較されていますよね。公爵的な生き方を批判しているのかな、というか。
B:どうなんだろう。
A:全然賛同は得られていませんね。
B:そんな深く読まなくていいんじゃないですかね。例えば、Cさんがロザリンド役で読んだ時に、最初は普通に女性として話しますよね、そして途中でギャニミードになるわけです。Cさんが男の子風の読み方をしている時点で面白いじゃないですか。そのギャニミードが恋の手ほどきをする時に、また女の子風の演技をあえてする、というような場面を観て、クククと笑う。そういう感じなんだと思います。多分、読み合いをしたら面白いんだと思います。一周回ってCさんでしょう、となるんです。
A:ロザリンドを演じる人は相当にハードですよね。すごい役者だと思います。
B:当時もそうだったと書いてありましたね。最近だと女性が演じていたりします。キャサリン・ヘップバーンが演じているときの写真が『シェイクスピア大図鑑』には載っていました。
C:へ〜。
B:キャサリン・ヘップバーンが、この役について、「自分がどれほどの役者か試す絶好の機会で、私はそれを知りたかった」と語ったようです。相当に難しいということですね。
D:そうですね。
C:確かに。
A:他にどうでしょうか。
D:解説で「自己欺瞞」については触れてありました。福田さんが言っていたのは「自己欺瞞」ということです。この河合隼雄がした解説には、『お気に召すまま』のセリフに「人生は舞台だ」というようなものがあるとありました。
B:そうですね。
D:人は皆、男も女も役者にすぎない、というやつです。これに河合さんは注目しています。演じること、つまり何重にも演じているわけです。舞台の中で演じている人を演じている。これってこの社会そのものでもあると河合さんはいいます。ペルソナと自己、エゴ、そんなユングの議論がありますよね。ペルソナとは仮面だから、この社会で生きていくためには誰もがペルソナを身に付けるわけです。それは色々と着脱していかなくてはいけない。ずっとペルソナを外せない人は困ってしまいます。家でも校長先生だと困りますよね。いろいろな文脈にあわせて、そういうものを着脱するというのが、人間のあり方です。その辺りに対してシェイクスピアは自覚的だったのではないか、と。一方で、西洋の伝統では、変わらない一人の自我という、一つの主体がいます。「The one」というようなものですね。神の前に立つ自分です。「自我は一つ」幻想がありますから。河合さんが言っているのは、アメリカで多重人格が多いらしいんです。多重人格障害というのでしょうか。アメリカでは「自我は一人」幻想がものすごく強い、けれど自分はいろいろなペルソナをまとっている、そこで分裂として発症するのではないか、と言っています。日本ってその辺りが曖昧です。「自我は一人」幻想ってないと思います。沖縄だと、人間には七つの魂がある、という話があります。そういうものがないから、曖昧に適当にやっているから、日本には多重人格障害が少ないんじゃないか、というように河合さんは言っていて、面白いなと思いました。
A:演じることを演じさせているから、舞台そのものを例えに使っていますよね。
D:舞台が世界のメタファーですよね。
B:そしてそれをジェイキスが言うんですよね。真ん中らへんですね。「全世界が一つの舞台、そこでは男女を問わぬ、人間は役者に過ぎない…」というのが一番有名なセリフです。その後、人生の7つの時代と言います。
A:そうなると、西洋の統一した自己といったものをシェイクスピアは想定していないということですよね。
B:そうだと思います。
D:順番として、西洋近代的自我はデカルトが1600年ごろですよね。そこから本格化します。國分功一郎『中動態の世界』でも言っていますが、中世の西洋って今とは違っていて、かなりアニミスティックな世界が残っていたようです。そういう意味では、シェイクスピアは近代人未満の近代人なのかもしれないですね。森のそういう感じを信じて主題化していることからも言えると思います。
A:近代のはざまにいる、という話は前回も出ていたように思います。西洋的な統一的自我があった上で、この物語を書いているのではないということでしょうか。
B:それは違いますよね。西洋的自我はまだありませんから。
A:当然そういうことですよね。
D:順番としてはそういう感じだと思います。そういうものが残っていた西洋というものを知ることのできる資料としてシェイクスピアはあるような気がしますね。
B:文学の世界で西洋的自我が現れたのはいつ頃なんでしょうか。
D:文学の世界でですね。
B:シェイクスピア以後ということになるので…。
D:そうですね。
B:1700年、1800年代ですよね。何の作品になるのでしょうか。その年代の有名な著作って何でしょう。小説ではないですが、ルソーの『エミール』とか…。
D:その辺りの時代ってよくわからないですね。ヘッセとかはもっと後ですもんね。
B:後ですよね。そういう視点で調べたことはないですね。
D:カフカはどうでしょうか。
A:カフカは一人にも色々な見方があるというような書き方をしているように思います。
B:カフカは1900年代ですよね。あの頃になると実存主義とかになっているので、近代的自我の批判に至っていますよね。
D:近代的自我を前提とする、ということですね。
B:ちょっとわかりませんね。
A:デカルト的な小説ですよね。自我が描かれている舞台なり小説なり、あるとおもしろそうですね。入れ替わっていく感じがわかると面白いと思います。
B:いわゆる哲学との接近というんでしょうか。哲学と文学の相互作用ってどうなんでしょう。
B:そろそろ次ですね。もうシェイクスピアはいいですね。悲劇と喜劇読んだので。
D:Cさんの本がわかったのでまだいける気がしますが。
B:あと2回くらい続けたら、みんなその本を持っているような気がしますね。それはやめましょう。
D:その本が一番情報量多いんですよね。
B:「こいつら読書会と言いながらダイジェスト版で読んでるぞ」って、「岩波少年文庫使ってるよ」って言われちゃいますよ。
C:もうシェイクスピアの戯曲集が売ってなかったんですよね。
B:別なところにあると思いますよ。絶対にありますから。
C:コーチャンフォーになかったんです。
B:コーチャンフォーにはめちゃありますよ。世界の古典の棚は別にありますからね。ちくま学芸文庫の隣に。
C:ちょっと探せていないんですね。
A:次は、『クリスマス・キャロル』に向けて…。
B:アンデルセンを読もうと言っていたはずですね。
A:アンデルセンですね。
B:『絵のない絵本』。
A:『絵のない絵本』もいろいろな訳が出ているんでしょうか。
B:いろいろな訳が出ています。いわさきちひろさんの絵がついたものも有名みたいです。安さでいうと、新潮文庫がいいですね。
D:いろいろな話が入っているんですか?
B:月が空から世界中のいろいろな人間の1日をみていく、という物語です。第1夜〜と続いていきます。月が語るんです。ヨーロッパや中国、インドに行くんですね。月の意思も感じられます。人間が出てこない話もあります。ストーリーはつながっていないけれど、月目線のエッセイということですね。
A:書かれたのは何年でしょうか。
B:書かれたのは…1839〜1840年みたいです。アンデルセンは元々舞台に立つ役者になりたかったけれど、なれなかった。『絵のない絵本』にもそんな登場人物がいます。いろいろな国に行っていますが、自分が住んだことのある国も結構出てくるんですよね。
A:それは童話でしょうか。いわゆるアンデルセン童話の一つ何でしょうか。
B:童話なんだけど、結構大人向けだと思います。子どもが読んでも…寝る前に一夜分だけ読むのは適しているかもしれません。子どもに読み聞かせる絵本って、読んでも意味はないという作品がありますよね。なんとなくイメージして寝るというような。あと、後に書き足されている部分があるようです。最終的に33夜になっています。
A:本人によって加筆されているということですね。
B:それが出来上がったのが1854年とあります。20年くらいかけて加筆されたものが今読めるものみたいです。デンマークではほとんど相手にされなかった、ドイツとかイギリスで評判になった、とあります。半分自伝的なんじゃないかなと思います。
D:いいんじゃないでしょうか。
B:これを読んで語れるかはわかりませんが。いい本を読んだという感じだと思います。その次が、これですよね。『クリスマス・キャロル』。世界の短編はほとんど買っています。そして、これ、『やし酒飲み』。
D:読みましょう。
B:これは買った二冊目です。無くしてしまったので。『やし酒飲み』を無くしてもう一回買うのは切ない。
A:アンデルセンでいきましょう。
B:『百年の孤独』も買いました。ラテンアメリカに行く前に。文庫がないんですよね。世界文学を辿ると、20世紀最大の著作と呼ばれているものが2つあります。一冊がジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』、古代ギリシャ神話のオデュッセイアを現代風にパロディした小説です。それは4巻本です。もう一つがマルセル・プルースト『失われた時を求めて』です。
D:めちゃ長いんですよね。
B:十四冊くらいあるような気がします。
D:きついよね。
B:ちょっと読んでみたら面白そうです。
D:最後だけは知っているんですよ。
C:最初と最後だけでいいです。
B:それは映画テネットのあらすじと同じくらい言ってはいけないものです。
D:マドレーヌの香り、なんですよね。
A:それは『プルースト物語』を読まなくてはいけないですね。
B:多分『失われた時を求めて』を40ページくらいにまとめられていると思います。
D:あ〜。
B:登場人物が10分の1くらいで。
C:ありそう。
B:そんな長いのもチャレンジしてみたくなりますよね。
D:大作ね。
A:心が折れそう。
D:『肩をすくめるアトラス』とか。
B:ギリシャ悲劇は半分以上読みましたよ。『オデュッセイア』とかは本当に面白いです。今も読んでいますが『イーリアス』とか。トロイア戦争の話です。
D:『ギルガメッシュ叙事詩』は?
B:それはもっと昔ですね。紀元前600年ごろがホメロスの時代ですよね。Bさんは前に『ゲド戦記』を読んでいましたよね。
B:一巻だけ読みました。
D:『ゲド戦記』はそういうものをコラージュしている感じがするんですよね。
B:ファンタジーの類はみんなそうな気がします。『指輪物語』だってそうですよね。全ての物語の源流が『オデュッセイア』『イーリアス』なんですよね。
A:そういえば、アジアの作品が全然ありませんね。手薄です。
B:アジアは『阿Q正伝』でしょう。みなさんに読んで欲しい。『阿Q正伝』は完全にコントですからね。吉本新喜劇というより、コントですね。笑わずして読めません。
A:私はシェイクスピアで笑えなかったから不安です。
B:あ〜。期待しているのは、アフリカとかラテンアメリカとかです。雰囲気が全然違いそうですよね。
A:とりあえず次はデンマークですね。
B:出身地はデンマークです。そして次はデンマークからイギリスですね。
C:イギリスにいたいな。
B:またイギリスに戻るという感じなんですね。まあクリスマスだからOKでしょう。
A:日程はどうしましょうか。いい感じの日はありますか?
…
A:では12月1日(火)16:30〜17:30でお願いします。本日はありがとうございました。