Works

第10回みらいつくり読書会 開催報告

みらいつくり大学校企画
第10回みらいつくり読書会@zoom

【課題図書】
カレル・チャペック『ロボット』

【実施日時】
2020/8/19 10:00~11:00

【参加者】
A,B,C,D (+ラジオ参加2名) 全6名

【内容】
A:みなさんはどの本を読みましたか?
B:僕は岩波を図書館で借りました。
C:青空文庫です。
D:私は岩波を読みました。
A:おそらく全然違うようです。岩波はチェコ語からの訳です。青空文庫は英語からの訳です。青空文庫の最後には解説があります。「(青空文庫は)キリスト教色が削ぎ落とされている」とのことでした。
D:迷いましたが、岩波文庫版には最後に「ロボットという言葉はどのようにして生れたか」という文章がついていたのでそちらにしました。カレル・チャペックの童話集が置いてあったので読んでみたいと思っています。
A:「カレル・チャペック」という紅茶とはどのような関係なんでしょうか。
D:ちょっとわかりませんね。
D:早速始めます。私は戯曲を読むということが初めてでした。セリフだけなので難しさはありましたが、読み始めると最初に書いてある「登場人物について」に時々戻りながらではありましたが、スラスラと読めました。結論から言うととても面白かったです。「何を批判しようとしているのか」「最後のオチはどうなるんだ」と考えながら読みました。何を批判しているのかについては、資本主義的なもの、そして「物象化」をテーマとして描かれていると思いました。「人間は不十分な機械だ」というセリフがありました。それらは批判の視点だと思いました。最後のオチでは「愛」とあります。ここに関してはもう少し別な方法があったように思います。芥川だったら、トルストイだったら、もっと別な終末を描くだろうと思いました。おそらく、人間のもっとドロドロした部分を描くと思います。
A:ラジオ視聴している人もいるので「あらすじ」「概要」を伝える必要があるかもしれませんね。
D:難しいですが話します。必要であれば付け足してください。この本は演劇の台本で、序幕・第1幕・第2幕・第3幕と分かれています。最初は、ロボットの工場にある女性が訪ねてくるところから始まります。そのロボットの工場では、ロボットを大量生産しています。序幕が終わってから10年の歳月が経ち、1幕に入ります。そこからは「革命」がおきます。ロボットが人間を支配していきます。人間を取り囲んで殺そうとします。最後に、人間はひとりだけが残されます。でもその一人をロボットは殺しません。なぜかと言うと「生命を生み出すことはロボットにはできない」からです。その謎を解明してくれと、最後のひとりが残されるわけです。結局その謎はわからないのですが、最後の最後に、今までつくられたロボットの数人が、人間のようになる…ここの部分、解説が難しいですね。
A:解説が深かったり浅かったりで補足しにくいです。
D:ま、こういう感じですね。
A:青空文庫には「終幕」がありますね。呼び方が違うのでしょうか。岩波は序幕と1幕〜3幕ですね。青空は3幕の後に終幕があります。区切り方が違うのでしょうか。
C:終幕ではアダムとイブについて触れられていますよね。感情をもったロボットたちが現れます。岩波も同じでしょうか。
D:そうですね。
A:青空文庫は第2幕を二つに分けているようですね。岩波でいうところの第3幕が、青空文庫では終幕となっています。そんな違いがありますね。青空文庫は5幕構成になっています。戯曲なのでどこで休みを取るか舞台転換をするかといった違いがあるのでしょうか。
D:2幕は会話が繰り返されていますからね。最後の部分ですが、人間らしい心のようなものをもったロボットが現れて最後ということですね。
A:青空文庫でいうところの終幕について、関係ない話かと思って読まずにいました。ヘレナという同じ名前の登場人物が出てくるので、新しい話かと思いました。最後に生き残っているのは誰ですか?
B:主な登場人物は、ドミンというRURロボット会社の社長、そして役員・研究者たちが5人、そしてヘレナという見学にきた令嬢のような人です。第1幕はドミンとヘレナの会話が中心です。2幕では役員会議のような場面があって、2幕の途中からロボットの反乱が始まります。3幕ではアルクビストという年老いた研究者だけが最後の人類となっている。出てくるヘレナというのは、令嬢に似せて作られた旧型のロボットです。僕は読みながら、これは最後にヘレナが生き残ったんだ、生き残ってアルクビストと新たな人類を始めるというオチを予想していました。そうではなかったので裏切られたのですが。
A:ヘレナは途中で死んでいますよね。
C:そうですね。
B:死んでいないパターンのオチなんだろうと思っていました。「ロボットのフリをしていたけれど、実は生きていたの」ということかと思いましたが、そうはなりませんでした。
D:第1幕で女ロボットのヘレナが出てきますよね。
A:出てくるの?
D:ガル博士が作ったロボットです。
A:ヘレナが生きているときに?
D:そうです。
C:労働できないロボットですよね。名前をヘレナとつけたと。
A:何でそんな名前にしたんだと最後に問うシーンがありますよね。
C:ガル博士のそばにおいていたから知らなかったのかなと思いました。お部屋に入れていたので。
A:時系列が難しかったですね。
D:感想からいきたいのですが、みなさんいかがですか?
C:「ウエストワールド」というドラマを知っていますか?アメリカのドラマです。Amazonプライムでも見られるはずです。体験型アトラクションをつくってそこに本当の人造人間を配置するという設定です。そこにはお金を持っている人たちが入れます。普段は普通に暮らしていた人たちが、体験型アトラクションとして犯罪も犯していい世界をつくったというドラマです。そのドラマの中では、人造人間たちが感情をもって反乱を起こします。まさに似ていると思いました。第一部、第二部とあるのですが、第二部では頭を切り裂くなど気持ち悪いシーンが続くので見ることができませんでした。この『ロボット』は100年前の作品とのことでしたが、今、AIなどロボットの反乱について考える人はたくさんいることを考えると、こういうことが実際に起きたら怖いなと思いました。人間が楽になることを考えすぎるとこうなるんだなと思いました。
B:僕は、これ以前にこういうタイプのSFがあったのかどうかは知らないけれど、その後のSFの要素が全てこの作品に詰まっている感じがしました。まずはマトリックスですよね。そしてブレードランナーの「何が人間とロボットを分けるのか」という要素が含まれています。「労働がなくなった世界で人はどう生きるか」と言ったようなテーマもあります。それについてはSFでは思い浮かびませんが、ユバルノア・ハラリが論じているのは人間が超人類になっていくことです。労働がなくなった世界で、人間は株主とそうでない者2種類に分かれると。そして株主は人体を改造していって、人類を超える存在になっていくと。それはもうすでにこの『ロボット』で描かれています。テーマが詰め込まれています。これを元ネタにして20世紀の様々なSFがつくられたという感じが面白かったです。AIやシンギュラリティという議論になって今もこれらが論じられ続けていることについても面白く感じました。読んでいる途中から、ドミンはジェフ・ベゾスと重なって思えてきました。AmazonのCEOです。ジェフ・ベゾスは、ベーシックインカム論の支持者でもあります。彼は自動運転の技術にも投資をしています。つまりAmazonというシステムを回す上で、人間がいつか必要なくなる未来を予測しています。それでも人がAmazonの商品を買い続けるためには、ベーシックインカムしかないというロジックなのでしょう。そういう世界という意味で、ドミンがベゾスに見えました。
A:以前にAmazonの倉庫に人がいない話をしていました。最近、AmazonのテレビCMをよく見ます。そのCMには人がいます。
C:そう。おじいちゃんが。
A:それは、人っぽさを前面に出そうとしているのかと思いました。子どもまで動員して、お父さんの仕事は〜なんて話しています。あとは定年退職したであろうおじいちゃんも出てきます。そのおじいちゃんは「ここで働くことが生きがい」といったような話しをします。それらは、今話していたことがあるからでしょうか。ここには人はいますよ、と言ったようなメッセージです。
B:僕は『欲望の資本主義』か何かで読みました。あくまで米国のAmazonですが、倉庫には絶対にカメラは入れないそうです。それは、そこで過酷な労働が行われているからではなくて、そこに人がいないことについて、見た人がショックを受けるからだそうです。ジェフ・ベゾスの本音は、そこで働いているおじいちゃんもいなくなればいいなということだろうと思います。もちろん日本のAmazonでは働いている人はいるんだと思います。倉庫にも人がいるのでしょう。ただ、どうやってコストを下げているかというと自動化とAIに他なりません。Amazonはこの世から労働をなくす方向に進み続けています。ドローン配達なんかもそうです。
A:青空文庫のあとがきには、原本はキリスト教的なものをベースとしていると書かれていますが、岩波文庫はそういったような書き方をされていますか?
B:そうですね。キリスト教的です。というのは、あとがきで読みましたが、それぞれの登場人物がヨーロッパの国を代表しているとのことでした。英国のファブリ、フランスのガル、ドイツのハレマイエル、ユダヤのブスマンといったようにです。『山椒魚戦争』もそうですが、カレル・チャペックは、当時第二次世界大戦前のヨーロッパの国際情勢を直接的に論じるとまずいので、フィクションとして風刺するという多重性を持たせているように思います。ドミンはラテン語の「主」だとあります。ラテン語で神を表す言葉です。おそらく、未来世界で神となろうとした人なのだろうと思います。チャペックはキリスト教徒でもありましたが、アルクビストはずっと預言者的に働いているわけです。労働とはこうだと、レンガを一つずつ積むんだと。彼の命が助かったのも、彼が労働から離れなかったからです。彼が労働から離れなかったから人間だと認識されずに死ななかったわけです。アルクビストはラテン語で「あるもの」からきているとのことでした。それは神の一つの名前です。おそらく、ドミンという神になろうとした男と、アルクビストといういわゆる神を代弁する人が対比されているのだろうと解説されています。
A:岩波版には最後の長いセリフがあります。1ページにわたるものです。それが青空版では全削除されています。英語版のようですが。アメリカなどで上演されるときに、聖書を含む「いのちとは何か」といったようなセリフが無くなっているようです。
B:宗教色を排除した形で上演されたりもしたということなのでしょうか。
A:青空の解説によると、この作品の特徴的な記述が3つあると書かれています。一つ目は生命倫理の話、二つ目はロボットの奴隷制の話、三つ目は愛の話。英語版では生命倫理の話と愛の話に関する、キリスト教的な叙述は全てごっそり削除されている、とあります。これはなぜでしょうか。
B:なぜでしょう。
A:聖書の素養がないとわからないからでしょうか。簡単にしているのでしょうか。
B:昨今のアメリカならあり得ると思います。でも当時はそんな時代でもないですよね。
A:むしろ当時のアメリカなら強く表現しても良いくらいだと思います。「キリスト教的な禁忌に及ぶから」とありますね。逆にキリスト教を信じる人からすると、それらを風刺するようなセリフを受け入れがたいのでしょうか。
B:あるかもしれませんね。ある種、相対化して再解釈することを許さないということですね。
A:1920年代。テーマ的には、ニーチェの後です。ニーチェが1800年代後半に「神は死んだ」と言いました。ニーチェが言った神はここでいうキリスト教的な神ではなくて、人間がつくりあげた偶像としての神です。人間はルネサンス以前中世の時代に本当の神を信仰していました。それからルネサンスという人間中心主義に至って近代科学が出来上がり、資本主義によって工場が造られます。その資本主義について研究したのがマルクスです。ニーチェは、人間が人間のつくった価値によって支配されていたということを「すでに神はいなくなった」と述べました。いわゆる超人ですよね。人がその立場にまで至らなければいけないというわけですよね。自分でつくった価値によって支配されるといったことを全て捨て去って超人にならねばならない、ということがニーチェの最終的な結論です。『ロボット』はそんな話ですよね。それらを、国を含めて風刺しているということでしょうか。最終的には人間が一人しかいないので、増えないですよね。
C:増えないですよね。
A:ヘレナもプリムスもロボットですもんね。
B:オチがいまいちしっくりこないのは、そこから生殖が始まるのかということだと思います。基本的には始まりません。なので、彼らが人間のようになってという話ではないと思います。だけど「彼らは新しいアダムとイブになって」と書いているのはどういうことなのかわかりません。ロボットが愛するということを学んだ以上、もはやロボットではなく人間なのだということまではわかります。ブレードランナーはそういった話です。人間らしいロボットは、ロボットと呼んでいいのだろうかという提起があります。人間には共感能力がどんどんなくなっていくけれども、ロボットは人間以上にセンチメンタルにもなるし人を思いやることができるとしたら、どちらがより人間的なのかというと、それはロボットです。最後の部分でそれを伝えているのかと思います。
A:『ロボット』の最後のセリフの後が、ブレードランナーで言う2049ですよね。ブレードランナーの元々の人もロボットだったんじゃないかという説がありますよね。結局ロボットではないですよね。ロボットとの間に子どもが生まれたわけではないですよね?ブレードランナーの話です。
B:僕はアンドロイドだったと解釈しています。木馬の夢というのもプログラムだったんです。自分が人間だということを担保するその記憶すらもプログラムだった。だから雪の中で泣いているんです。
A:ヘレナとプリムスの間に、仮に子どもロボットをつくったとしても、似た話になりますよね。それをわかりにくくするためにヘレナという同じ名前を出しているのでしょうか。アルクビストは人間だからいつか死にますよね。でもそのアルクビストが、ヘレナとプリムスに「生きなさい」と言います。神がかつて人に言ったという創造の時のように「産み増えよ、地を満たせ」と言います。そこにはもう人間はいないですよね。仮に生殖ではなく作って増えたとしてもです。つまり、おそらくチャペックは最後のアルクビストすら風刺しているのだと思います。あたかも最後に残された人間が神のように、かつて神が人間に言ったかのように、残されたロボットに「生きよ」と言います。「でも増えないんだ」という批判なのか、増えたとしてもそういうことではないということなのか。だから、やはり形而上学批判なんだと思いますね。技術もそうだけれど。今読んでいるからか、ハイデガーに行きつきますね。ハイデガーは労働については触れていませんが、全てのものを人間に役に立つような仕組みにしていることが、最終結論です。「総駆り立て体制」です。それの極論が原子力であると。
D:前回のトルストイもそうでしたが、ハイデガーと結び付けながら読んでしまうことが面白いなと思っていました。人間と機械の区別についてですが、読んでいる途中に人間性というものを因数分解しているようだと思いました。何をもって人間とするかということなのだと思います。人間と機械については、ハイデガー的にいうと、存在者としては、区別は無いはずですよね。そして、私たちは、重症心身障害者は現存在なのか、と考えるわけです。
A:『ロボット』に引き寄せて考えると、ロボットたちは現存在なのかということですよね。
B:人が働かなくなった時に人が子どもを産まなくなったというのは、面白いなと思いました。生物学的な論理としては繋がっておらず、なぜそうなったかは説明されていませんが。働くなった人は産まなくなるというのは、労働があるから人間だったんだと、「人間性とはいのちを生み出すことだ」という定義ですよね。この本の中では。新しい生命を産み出せるものが人間で、産み出せないものは人間ならぬものであるというのがこの本の中での図式です。そして人間が働かなくなった時に、人は産まなくなる。人間が労働から離れた時に、人間ではなくなるということをアルクビストが言っています。そのあたりの労働観、労働哲学といったものも僕には響きました。
A:チャペックの労働観は何をベースにしているのでしょうか。マルクスでしょうか。
B:『山椒魚戦争』は労働の話だったでしょうか。
A:当時のチェコはどのような社会だったのでしょうか。社会主義でしょうか。
B:バッチャという国策によって国が保たれたのは、マサリクがいたからです。それがあったからチェコはナチスに完全には呑まれなかったんだと佐藤優が言っていました。自国の産業を築くことができたから、ナチスへの堤防になれたと。労働がもつ力というのはそういう意味かもしれませんね。意識していたと思います。
A:労働が国の基本であると考えたということですよね。建国が1918年なんですね。最初は共和国ですね。ちょっとわかりません。
D:前に話題になった『園芸家12ヶ月』は、労働観についての話でしょうか。
A:『園芸家12ヶ月』は、園芸家が自宅でひたすら園芸を続け、ちょっとした社会風刺をするというものです。チャペックの『おかしな人たち』という本がありますが、ライトな社会風刺が書かれています。
D:園芸というような、手でものをつくり育てるということを重視するといったことではないのでしょうか。
A:きちっと自分でつくるといったことには多少触れていると思います。あまり覚えていませんね。
D:産むことについては「人が実を結ばない花になる」という印象的なフレーズがありました。ヘレナは何度もそうやって話します。
A:これはちょっと岩波も含めてもう一度読みたいですね。読み込めませんでした。残念です。
D:明かに「労働」はキーワードですよね。チャペックが労働をどのように捉えていたのかについてわかるだけで、批判の大元がわかるはずです。
B:ロボットがそもそもチェコ語の「労働」を意味しますもんね。労働をめぐる話なんですよね。21世紀的に考えると、それがシンギュラリティ論争と絡んできます。この本でいうロボットの反乱はシンギュラリティです。汎用AIが人類の知性を超えるということです。カーツ・ワイルという社会学者が2040年ごろに来ると言っています。僕は多分来ないと思っています。それは、人間の脳の複雑性をあまり考えていないからです。後100年200年は無理だと思います。だけど、かつて囲碁でコンピュータが人間に勝つことは無理だと言われていました。でも羽生善治だけが「多分2020年までにコンピューターが勝つだろう」と言っていたそうです。そして実際にそうなりました。それはエポックメイキングでした。チェスはいけても、囲碁は絶対無理だと言われていました。それは大きな一歩だったそうです。でも、それらが行き着いた時にマトリックス的な未来であるというのは、行き過ぎだと思います。技術の限界を見れていないと思います。だからといって、AIが破壊的なイノベーションではないという話にはなりません。確実に破壊的なイノベーションになります。特に自動運転関係とかは労働を確実に奪うでしょう。その辺は大切なテーマですよね。新井紀子さんの『AI vs 教科書が読めない子どもたち』に引きつけると、その辺で教育が大切になってきます。なぜか知らないけれど、AI時代が来るから教育を変えなければいけないという旗振りをする経産省や文科省の偉い役人がやっているのは、むしろ人間の知性をAIに寄せるようなことだと言っています。読解力や深い読みではなくて、計算を早くしようとかプログラム教育をしようとしています。それらはAIが最も得意なことです。新井紀子さんはそれらのちぐはぐを指摘しました。AI時代に、人間がむしろAIに寄せてしまうということも、この『ロボット』の中に出てきています。人間は、本当はロボットと逆に振らなければいけないのに、むしろ人間がロボット化していく。産まなくなるというのはそういうことだと思います。今と重なるなと思いました。
D:主題とはズレると思ったので触れませんでしたが、序幕で興味深いセリフがありました。「教科書には何が書かれていないかご存知ですか」とあります。あと「教科書にあるのは金を払って出した広告と、馬鹿げたことばかりだ」ともありました。教育というテーマも陰にあるかもしれません。
A:経産省と教育の話ですが「Society5.0」と言われています。狩猟社会、農耕社会と進んでいって、今後新たな社会をつくるということです。それに全政策が向かっているとのことでした。それは自明の前提として動いているとのことでした。いわゆるリアルワールドとバーチャルワールドを組み合わせるということらしいです。経産省が中心なんだと思います。
B:内閣府のホームページで見られますね。でも経産省なんですね。
A:おそらく全ての政策のベースがここなんだと思います。一番怖かったのが、それを組み合わせて「人間中心の社会をつくる」ということです。まだ読み込めていませんが、それらのことと比較して『ロボット』を読んだらいいと思いました。ニーチェやハイデガーも同じです。ハイデガーがもう100年前に言っていたでしょう、ということをもう一度取り上げますよね。原子力を人間中心の極地と言っていたはずです。あれだけもう維持はできないということになったはずなのに、それを認めないまま、「人間中心」をさらにバーチャルワールドも組み合わせて進めるということです。
B:これはすごいですね。内閣府のホームページには、「Society 5.0では、ビッグデータを踏まえたAIやロボットが今まで人間が行っていた作業や調整を代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになります。」とあります。これはもはやRURのドミンがつくった企業パンフレットを読んでいるかのようですね。もはやSFです。
A:確実にこれをベースに行っています。トヨタが富士山麓につくろうとしている街は、これらを先取りした話なんだと思います。
D:私が学校現場にいた一年前、現場にいてもSociety5.0は聞こえていました。新指導要領の背景には、Society5.0があると言われていました。超末端の私にすらそうやって聞こえていました。それは、疑いようもないこととなっていました。北大の宮崎先生は、Society5.0について触れるところから批判を始めますよね。
B:昨今の経産省関連官僚の劣化具合がすごいと言われています。今は首相官邸が強いですよね。あの人たちは経産省で出世できなかった人たちです。だから各省庁のパワーバランス的には、財務省が最強の官僚でと言われます。外務省は憧れで、厚労省は予算を引っ張れるから強いが、文科省は最弱だと言われます。
A:最弱は環境省でしょうか。
B:そんな中で経産省は首相官邸とパイプをつくることによって、一気にパワーを得てきている。そして経産省の官僚がすることはことごとく変です。「GoToキャンペーン」はまさにそうです。内部までは詳しくないのでわかりませんが、佐藤優が「若手の官僚に反知性主義を感じる」と言っていました。頭はとてもいいわけです。ペーパーテストの結果で言ったら彼らにかなう人はいません。でもなぜ彼らが反知性主義かというと、彼らは古典を読まないんだと言っていました。古い本を読まないと。基本的に踏まえておくべき西洋の知性の積み重なりがあります。ゲーテ、ニーチェ、ヘーゲル、ハイデガー 。そういったことを踏まえずに、ハラリのような本でそれらの上澄みをすくって発想するんだけれど、そういうものに対してすでに100年前に批判が加えられているところまでは回らないということでした。
D:そろそろ時間ですね。最近は一人の作者、一つの作品で回していましたが、今の反知性主義の話もそうですし、Society5.0について考えるためにも、チャペックの労働観については、もう一段階踏み込んで考えたいですね。「労働」をテーマにしつつ、チャペックの別作品を読んでみるのはどうでしょうか?
A:労働に絞らなくても、チャペックに絞らなくてもいいですが、せっかく『ロボット』を読んだので、今出てきたSociety5.0などの現代的な背景をもってもう一度深めて考えると良いと思います。『山椒魚戦争』もそんな話ですか?
B:『山椒魚戦争』は政治がテーマですね。ナチスのメタファーなので。
A:『ロボット』のままにして、久しぶりに2回目をするのはどうでしょうか。当時これらが何を意味していて、今に何が当てはまるのかといったことを考えたいですね。
B:これ(Society5.0)を国が主導しているというのが異常ですよね。こういうのって、民間から出てくるものですよね。日本がちぐはぐなのは、国がこういうことを言っている割には、現場ではネポティズムというか縁故とか忖度とかいう寝技で物事が決まっていくわけですよね。こういう華々しい花火をあげておいて、現場では寝技という。
A:(Society5.0は)科学技術政策の話だから、多分、各界の人たちも入っているんだと思います。ああいうのに入る人たちって決まっていますよね。あまり僕も人のことは言えないですが。そういう人たちが目指す社会だから、国が上から降らせた話ではなく、こういう方向にいくと、よく言う「win-win」の関係なんでしょうね。科学技術とか、AIとか、その中に労働も入ってきますし、人間中心主義とか、そういったものを踏まえてもう一度『ロボット』を読み直したらどうかと思います。…。
B:『イワンの馬鹿』は「労働」でしたよね。手が汚れていない人は信用できないという話です。
A:1900年代初頭、スペイン風邪の後でしょうか、こういう話は多かったんでしょうね。たまたま青空文庫になっているものを読んでいるから多いのだと思います。私たちが扱っているのは100年前の著作が多いですよね。
D:では次も『ロボット』にしつつ、その周りの副読本のようなものを読むことにしましょうか。
C:そうだったらウエストワールドをぜひ観てですね。
A:そうなるとおそらくSFのほとんどが繋がってきますよね。ウエストワールドだけ観てもあれですよね。
B:『アップロード』ってわかりますか?これもAmazonオリジナル作品で、VRの話だそうです。VRで、人間が好きな世界で好きなように過ごせるという世界を描いているようです。誰も現実に戻ってきたくないという話です。マトリックスの裏側なんだと思います。
A:AIとかロボットとかいうことよりも、そもそもなぜそれを作ろうとしていたのかとか、それを作って何を目指していたのかという方がよっぽど大事なんだと思います。
D:では何かしら副読本をあげて、それぞれが気になるものを読んでみて、『ロボット』でもう一回集まりましょうか。
A:それを扱ったようなものありますか?労働に関するものですね。
D:最近の新しいものを読むよりは、同年代の古典を読む方がいいかなと思います。『山椒魚戦争』は読んでみたいと思っています。
B:それぞれに選んでもいいですよね。
C:私は星新一が好きなんですよね。調べてみると時期は少しずれますが、重なりもあると思います。
A:チャペックだと、もう一つの『絶対製造工場』という作品があります。これは近いかもしれません。これはいいかもしれませんね。
D:では、あくまで『ロボット』にしておいて、副読本になるなと思うものがあったらホームページで羅列するようにして紹介したいと思います。
A:では僕は『絶対製造工場』を読んでみようと思います。
B:神を製造する機械をつくった、という話のようです。
A:すごいですね。
B:神が増殖して混乱するという話のようです。まさにホモデウスですね。『ニムロッド』ってわかりますか?最近読みましたがスーパーヒューマンの話です。この辺りなんですよね。今は。
A:日付を決めましょう。
B:9日大丈夫ですよ。
D:では9日10時〜でお願いします。