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喀痰吸引研修レポート_No.0

数年前から,「どんぐりの森」で週に1回の勤務を継続しています.
「どんぐりの森」は,医療的ケア児の保育園をコンセプトにした特定短期入所で,医療法人稲生会の事業の一つです.
日中だけですが,子どもたちがやってきて,遊びを中心にした活動が毎日展開されています.
(この記事を書いている手を止めて様子を見に行ってみると,みんなでスライムを作って大胆に遊んでいました.)
私は,つらいことがあると「どんぐりの森」に逃げ込みますし,嬉しいことがあると「どんぐりの森」に報告に行きます.

しばらく前のことになりますが,管理者の玉手さんから声をかけていただきました.
「かいさん,一号研修を受けてみない?」
(稲生会の界隈で,「一号研修」は「喀痰吸引等研修(一号)」のことです.)
私は「いいんですか?」と返事をしました.

医療的ケアが必要な子どもたちと一緒にいて,私にできることは限られています.
専門家たちが「サクション」を肩にかけて持ち歩く姿はどんぐりの森における日常の景色です.
「ゴロゴロ」している子どもたちが,吸引機で痰をとってもらってスッキリする場面も同じく日常の一部です.
(*専門家は痰がある状態を「ゴロゴロしてる」と言います.)
痰をとってもらって,子どもたちは気持ちよさそうにしています.
私は,実は,痰をとった専門家も気持ちいいのではないかと想像しています.
密かに私は「サクション」に憧れていました.
なので,玉手さんに研修を受けてみない?と言われた時,嬉しくて「いいんですか?」と返事をしました.

でも,もう一つ,「いいんですか?」には意味があります.
私は,医療法人で働いていながら,医療者ではありません.
私の専門は教育学です.社会教育が私の専門です.
稲生会の理念は,「困難を抱える人々とともに,より良き社会をつくる」です.
理念に「医療」も「福祉」も含まれていないのは,私たちの働きは,「=医療」や「=福祉」ではないからです.
私たちは,食堂を経営しています.
私たちは,生涯学習の場をつくる活動をしています.
私たちは,子どもたちと一緒に,フラダンスを踊ります.

私は,医療法人稲生会においては,その理念上,医療を専門としていない人たちの参画が鍵であると考えています.
何をしているか,も大切ですが,誰がしているか,も重要だからです.
非医療者である私が,稲生会の一職員としてともに働いていることは,とても大切なことなのです.
喀痰吸引研修を受けると,いわゆる医療的ケアの一部が実施できるようになります.
私は「医療的ケアができるようになっていいのだろうか」と思って,「いいんですか?」と聞きました.

玉手さんは,私の表情を見ながら「いいと思いますよ」と返事をしてくれました.
玉手さんは,いつも私に優しいのです.

いよいよ,この7月〜8月に,喀痰吸引研修を受講することになりました.
ふとテキストを眺めてみて心配になってきたことがあります.

私は,パウロ・フレイレに憧れています.
(ぜひGoogleで検索してみてください.)
フレイレは,銀行型教育・伝達を批判しました.
(ぜひGoogleで検索してみてください.)



テキストを眺めると,喀痰吸引研修は,「伝達」そのものです.
きちんと決められた方法で,伝えられた通りに実施されるのが医療的ケアです.
サクションや胃瘻からの注入が,ケア者の自由に行われたら…そんな事はしてはいけません.

フレイレへの憧れは,ただの言い訳かもしれません.
昔からの天邪鬼が大人になっても治らず,誰かに言われた通りにするのがとっても苦手な私は,研修を無事に受けることができるのでしょうか.

とっても心配になってきました.
だからレポートを書くことにしました.
「喀痰吸引研修レポート」として,受講の経過を連載しようと思います.
もし途中で連載が途切れていたら,何かあったんだなと思ってください.

ということで,喀痰吸引研修レポートを開始します!

2025.7.18
みらいつくり研究所
まついかい