「Ready」
春は準備されている
染色家なら知っている
冬の枯れ枝のなかに
春の花の色はすでにあること
冬越す蛙なら知っている
凍える土の奥深くに
春の温もりは既にあること
子どもたちなら知っている
北風の中に薄っすらと
遠い花園の甘い匂いがあること
夜の真の闇のふかく
詩は知っている
その心音の奥 その体の奥
春の夜明けはすでにあることを
「春は裁判」
はる
しにたくなる
更新の季節だから
今年こそ
仕事は打ち切りかもしれない
次の契約はありません
頭が悪いから?
要領が悪いから?
運が悪いから?
こわい こわい
しにたくなる
失業の季節だから
判決され
執行されるから
太陽は柔らかく包む
温かさに包まれて
永遠に眠れと
ならば寝かせてくれないか
このまま100年でも
はる
私に花は咲かない
でもここにいる
いきるしかなくて
「はる みちる」
さくら
やわく光って
ねえ
お腹に赤ちゃんがいるよ
はなのあめあめあめ
2ミリメートルの存在を
立ち尽くして抱きしめた
五月
金色の風が吹いて
ねえ
赤ちゃん生まれたよ
半年にも満たない手
ちいさくてちいさくてちいさくて
ないて
うごいて
吸って
ねむって
なんで
忘れちゃうんだ
ここにいるだけで
こんなにもきれいだ
もうすぐ
六月
空が海になる
(三刀月ユキ)