Works

しさくの広場2024 春 作品No.42_松嶋孝

『飛花(ひか)』

桜が舞う公園の道を、娘のまだ小さな手を握って歩いた。
花びらたちは優しい風に手を引かれて春の柔かな空にひらひらとその身を委ね、周囲にきらきらと彩光を散りばめている。
娘はその光景を、「絵本の中にいるみたい」だと評した。それから、ふと私の手を離して木の足下へ行き、「ピンク色の綺麗な絨毯」に乗って笑顔をこちらに向けた。
ただ美しいと思った。
ただ、儚いと思った。
私は、うん、とだけ返して娘の方へ手を差し出した。

 

『花風(はなかぜ)』

満開の桜は
花びらひらひら散るばかり
あなたは手のひらひらひらと
私を呼びますけらけらと
私はおろおろするばかり
涙がぽろぽろ落つばかり

 

松嶋孝