Works

作品No.002_しさくの広場2021春

眼がさめると、世界は一変していた。

Lemonが年間ベストになったのがもはや懐かしい。

先が見えない日々の、蜘蛛の糸。

誰もいない街の通りに響くのは、犬の遠吠えと自粛の笛。

カードの男を求める人々があがめるのは、西方の人なのか。

「盗まれた」と言わんのは馬鹿だと言わんばかりに。

ロボットのように漂う魂たちは、漂白剤に頼らざるを得ない。

「大切なものは目に見えない」、どこかの星から来た生命体が告げているかのよう。

信じたくない現実に、人々は目をつぶす。

手を洗おう。手を洗おう。手を洗おう。洗うこの手は、きれいなのか、汚いのか。

あっちの奴らは、不倫も、癒着も、お気に召すまま。

目的を失った戦略は、絵のない絵本のよう。

クリスマスになっても、キャロルは聴こえない。

小さいものが、巨人のよう。馬にも劣るYahooの群れ。

革命の先には、新たな支配が待つ。

ユートピアなど、どこにもない。

闇の奥を見たものの安息は、やけ酒のみ。

 


week2交流週

・世相を皮肉たっぷりで表現していますね。「信じたくない現実に、人々は目をつぶす」。「目をつむる」じゃないところに、もう二度と現実を見ないという強い表れを感じました。でも、最後の「やけ酒」はクスッと笑いました。
・今日の空が曇っているからか、なんだか心も曇り空になるいまの世の中なのかなぁと思いました。
・2020年度のみらいつくり読書会を振り返っているんですね。一度完成した作品は変わりません。しかし、鑑賞を含めて一つの作品だとするなら、変化し続ける作品ができるんだなと思いました。逆に、作品が作者の意図とは違った意味をもつこともあり得るのだと考えると、少し怖くなりました。表現って面白いですね。

week3推敲週
 
2020年度に開催された「みらいつくり読書会」の課題図書を開催順に使って、2020年度の世相を「しさく」してみた作品です。
使うモチーフや順番がすでに決まっているわけですが、そこから新たな言葉を生み出すことで、偶然による「しさく」が生まれるという、面白い経験をしました。
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眼がさめると、世界は一変していた。 ⇒ カフカ『変身』:冒頭、主人公のグレゴール・ザムザが「眼がさめると、自分が芋虫になっていた」ところから
Lemonが年間ベストになったのがもはや懐かしい。⇒ 梶井基次郎『檸檬』:米津玄師の2019年の楽曲「Lemon」
先が見えない日々の、蜘蛛の糸。⇒ 芥川龍之介『蜘蛛の糸』
誰もいない街の通りに響くのは、犬の遠吠えと自粛の笛。 ⇒ 芥川龍之介『犬と笛』
カードの男を求める人々があがめるのは、西方の人なのか。 ⇒ 芥川龍之介『西方の人』:イエス・キリストの話
「盗まれた」と言わんのは馬鹿だと言わんばかりに。 ⇒ トルストイ『イワンの馬鹿』
ロボットのように漂う魂たちは、漂白剤に頼らざるを得ない。 ⇒ カレル・チャペック『ロボット』、ヘルマン・ヘッセ『漂泊の魂』
「大切なものは目に見えない」、どこかの星から来た生命体が告げているかのよう。 ⇒ サン=テグジュペリ『星の王子さま』:作中に出てくる有名なセリフ「大切なものは目に見えない」から
信じたくない現実に、人々は目をつぶす。 ⇒ ソポクレス『オイディプス』:オイディプス王が信じたくない現実を知って目をつぶすところから
手を洗おう。手を洗おう。手を洗おう。洗うこの手は、きれいなのか、汚いのか。 ⇒ シェークスピア『マクベス』:自らの権力欲のために王を殺害したマクベスが、血のりのついた自らの手を何度も洗い、「きれいは汚い。汚いはきれい」という有名なセリフを発するところから
あっちの奴らは、不倫も、癒着も、お気に召すまま。 ⇒ シェークスピア『お気に召すまま』
目的を失った戦略は、絵のない絵本のよう。 ⇒ アンデルセン『絵のない絵本』
クリスマスになっても、キャロルは聴こえない。 ⇒ チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』
小さいものが、巨人のよう。馬にも劣るYahooの群れ。 ⇒ ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』:第1部 小人の国、第2部 巨人の国、第4部 フウイヌムの国(馬と人間が逆転した国。馬が理性を持つ主人となり、人間は野蛮なヤフーとされている)
革命の先には、新たな支配が待つ。⇒ ジョージ・オーウェル『動物農場』:ロシア革命批判としての寓話。動物たちが人間に対して反乱し革命政権をつくるが、一部の動物が中心となり全体主義体制という新たな支配をつくるという話。
ユートピアなど、どこにもない。 ⇒ トマス・モア『ユートピア』
闇の奥を見たものの安息は、やけ酒のみ。 ⇒ コンラッド『闇の奥』、エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』