みらいつくり大学校企画
第17回みらいつくり読書会@zoom
【課題図書】
アンデルセン『絵のない絵本』
【実施日時】
2020/12/1 16:30〜17:30
【参加者】
A,B,C,D,E(+ラジオ参加3名) 全8名
【内容】
A:早速始めていきましょう。あらすじを説明する内容ではなかったように思います。大まかな枠組みとしては、「月」が「わたし」に語りかけてくれたことを第一夜から第三三夜まで短編のようにして書き連ねてありました。「月」はいろいろな場所に行くことができます。それは決まって夜です。「月」がいろいろな場所で見たことを、「わたし」が本にしたということです。
B:ちなみに、月目線ではない部分もありましたよね?
C:今日は月が話してくれません、といったような夜があったように思います。
B:そして、誰かが話していて途中で月の話になる…という部分があったような…。
A:月が出ないという部分はありましたが、私は全部月が話してくれたものだと思っていました。
B:ちなみにみなさんはどの訳を読みましたか?
A:私は新潮文庫、矢崎源九郎さんの訳を読みました。
B:同じです。Dさんだけ違いますね。
D:これは、角川文庫です。自分では買いに行くことができなくて、夫に「仕事帰りに買ってきて!」とお願いしました。
B:誰が訳したものですか?
D:これは川崎芳隆さんという方が訳しています。
B:へー。やはりいっぱいあるんですね。僕は最初、新潮文庫を買って読みましたが、その後に評判が良かったこれを…。
A:いわさきちひろさんが絵をつけたやつですね。
B:そうです。山室静さんという方が訳をつけたと書いてあります。先に言うと、この訳はあまり良くなかったように思います。
A:もちろん、絵がついているんですよね?
B:そうです。こんな感じ。でもいわゆる「いわさきちひろ」さんらしくはないように思います。こんなテイストです。
A:そっか、今見せていただいた箇所は白鳥の話ですね。
A:それぞれに印象的なところがあったら紹介してもらえるといいかもしれませんね。
B:好きなところがあったら朗読したらいいかもしれないですね。これって朗読したらいい話ですよね。Eさん来ましたね。Eさんはどの本を読みましたか?
E:すいません。僕は変わった本を読みました。これです。
B:大きい。
E:図書館にはいろいろありました。「大活字文庫」と言うのがあったので、それにしてみました。借りてみたら、尋常ではない「大活字」でした。こんな感じです。
D:見やすい!
E:大きいとは聞いていたけど「こんなに大きいの!」と思いました。これは読みにくかったです。めくるのが大変でした。
B:それはベッドの中で寝ながら読むのは難しそうですね。
E:今日借りて今日読みました。
B:訳は誰ですか?
E:訳は、矢崎源九郎さんです。
A:同じですね。こっちはこんなに小さいのに。
B:290円ですしね。
D:安い。
A:私はどれが好きか、印象的かというと、第九夜です。グリーンランドの話です。
C:氷山を墓標にする、というような話ですね。
A:そうそう。氷の下に流すのか流さないのか、というような話です。
B:あ〜。割と「えっ」というような話ですよね。なんで?って感じ。
A:そういう地方の、グリーンランドの、北極圏の、死に関する文化ってあるんだなって思いました。死が悲しいものとしては描かれているのですが、自分たちで死に方を選んでいるというか、「死んでからの安息を与えるのも海だ」と書いてあってすごいなと思いました。
A:全体の印象としては、アンデルセンって『マッチ売りの少女』とかにわかりやすいのですが、「少女の貧しくて清らかな心」といったものを、「良いもの」として描いているように思いました。それってキリスト教の影響を受けていると思いました。『絵のない絵本』に出てくる「わたし」は、アンデルセンをあらわしていると思いました。「月」が話したことも、アンデルセン自身が旅をして見てきたものを描いていると書いてあったので、「月」もアンデルセン自身なのかもしれません。自伝的だ、ということですね。アンデルセンが何を批判したかったのかについてはよくわかりませんでした。
B:批判はしていないんじゃないですか。
A:ですよね。
B:Aくんは大体批判として読みますからね。
A:もう作家はみんな芥川だと思って読んでしまっていますね。
B:確かに。
A:みんな芥川目線だと思っています。
B:この本には風刺性はあまりないですよね?
A:そんな気がします。
E:そうですね。
C:好きな作品…。私は気合を入れて、どの話がどの国なのかメモをしながら読みました。全体的にはイタリアが多かったです。調べてみるとアンデルセンはイタリアが好きで旅行によく行っていたようです。そんなことが影響されていたのではないかと思いました。単純に童話、子ども向けの創作なので、教訓じみたものは『グリム童話』なんかに比べるとないのかなと思いました。私が好きなのは、一番最後に読んでいたから…第三三夜ですね。女の子が「パンにバターがついていたら…」と祈るシーンが印象的です。全体的な印象というと、Aさんが言っていたように、貧しい女の子というか、アンデルセン自身が貧しい出身ということもあって、「そうであってほしい」という願望も描かれていると思いました。社会的弱者が主人公であったり救われるような作風であったりすることが多いのかなと思いました。調べてみると、アンデルセンは学校にも行っていなくて本当は俳優になりたくて、というような背景もあるようです。当時、ドイツの作家ゲーテがすごく人気だったようです。ゲーテが死去した年に、アンデルセンが回想録を書き始めています。影響されているのかな…と勝手に思っていました。
B:ゲーテと同時代人なんですね。
C:そうなんですよね。作風が似ているわけではないように思うのですが、同じ時代を生きていたなら影響は受けているのかなと思いました。『グリム童話』はもう少し前の時代ですよね。
B:アンデルセンよりも前ということですか?
C:アンデルセンより前だと思います。前にBさん絵本の講座を受けていたじゃないですか。あれはどうされていますか?
B:はっはっは。
C:私も同じ講座を受けていたんですけど5月にやめたんです。
B:そうなんだ。
C:そうなんですけど、久しぶりにテキストを出して読んでみました。アンデルセンとグリム童話のことが書いてあったのでそこを読んでいました。
B:すいません。一応最後までDVDが来ていました。でもそのまま修了できないまま…。
C:『グリム童話』はグリム兄弟が民話とか人の中で代々聞かされてきた話を編纂してまとめた物語なんです。アンデルセン童話はアンデルセン自身の創作なんです。アンデルセンの方が年齢幅にとらわれず人気だったと書いてありました。教訓じみた『グリム童話』よりもアンデルセン童話の方が人気だったんだなと思いました。以上です。
B:ゲーテと同じ。そしてディケンズとも同じなんですよね。
E:なるほどね。
B:ディケンズとは接点があったようです。「ディケンズとの友情」と書いてありました。手紙をやりとりしていたようです。アンデルセンは一度、ディケンズの別荘に行ったらしいです。でもディケンズの娘ケイトが「父親はアンデルセンを痩せこけて退屈な男だと評していた」と当時を振り返っていたらしいです。アンデルセンはディケンズに嫌われたと思って友情を取り戻そうとしたが、ディケンズが素っ気ない手紙を返して、二人の友情は終わりを迎える…とあります。ディケンズも元々貧しい人ですよね。
E:そうなんですね。
B:おそらく次読むであろう『クリスマス・キャロル』ですよね。ゲーテも同じ時代なんですね。マルクスも同じくらいですね。
E:そっかそっか。なるほど。
A:同時代人がわかってくるとどんな感じだったか少し想像できますね。
D:私は例の如く全部は読めませんでした。第一夜から第三夜を読んで、その後は最後の第三三夜を読んでしまいました。
C:衝撃の読み方ですね。
B:この本はどこから読んでもいいやつですからね。
D:そうだったんですね。最後の話を読んだときに、どこから読んでもいいやつなんだなと思いました。Bさんが言っていたように、子どもたちに読ませてみました。お布団の中に子どもたちを寝かして読んでみました。どこで引っかかるのかなーと思ったら、日本語の書き方でした。「〜でした」ではなく、「〜あの人が生きている、と。」で終わる文章があります。そこを子どもが気にしていました。内容ではなく表現を気にしていました。アンデルセンが書く子どもの表現ってかわいいなと思いました。すごい純粋な子どもの表現をしますよね。すごくかわいいと思いました。三三夜まであるので、少しずつ読み聞かせようと思います。
B:確かに、読み聞かせするのにいい感じですよね。
D:そうなんですよ。2ページとかなので、ちょうどいい量ですよね。
B:読み聞かせをするとリズムがわかるんですよね、多分。ということなんだよな、と思いながら黙読していました。
A:でも、怖い話もありますよね。途中。
E:うん。
B:あるある。
D:そうなんですね。
A:これ夜に読まれたら寝られなくなるっていうのもありました。
B:あ〜。
D:それだけは避けて読もうかな。
B:幽霊が〜とか。
C:ありますね。一九夜とか。自殺しちゃうお話しですよね。
B:あ〜。あったね。
E:僕はこれが一番刺さりましたね。
B:一九夜が?
E:一九夜が。一番印象に残りました。切実なものを感じて。あとがきを見ると、彼は役者になりたくて挫折をしたんだと書いてありました。自分のことなんだなと思いました。
D:ちょっと印をつけておきます。
C:読まないように。
D:そう、読まないように。
B:読んでみて途中であれっとなっても止められないですよね。
D:これだった!みたいな。
B:読み続けたら「それは自殺者だった…」。
D:後戻りできませんね。
E:一回自殺しないんだけど、やっぱり自殺するんですよね。
B:そうなんだよね。途中なるほど〜と思うんだけど、やっぱりその後自殺するんです。
A:この話が切実、というのはわかるような気がします。
E:彼の中の役者という人格は死んだんだと思います。役者を諦めた時に。その話なんだと思います。
E:僕は、字がでかくて大変でした。普通の本のタイトルくらいあるんですよね。弱視の人とかが読む本なんでしょうね。
B:確かにそうかもしれないですね。
E:図書館って調べるとたくさん出てくるんだけど、どれがどれかわからないから、出版年が新しいものを選びました。するとたまたまこれでした。
B:確かにそれは弱視の人のためのものかもしれないですね。
E:高齢者の方とか。そういう感じがしました。月の話なので二八夜とか三〇夜で終わるのかなと思いました。月の満ち欠けだとそうですよね。三三まであるから読んでいて「続くんかい」と思いました。
B:書き足したみたいなんですよね。
C:途中で第一版はつくられています。
A:でも最初に出版された時から中途半端な数ですよね。
B:1844年の第二版において三一夜を包括するに至った、とあります。一応、一月ということなんじゃないですかね。でもその後なぜか4年後に第三二夜と第三三夜が付け足された。
E:へ〜。
B:なんででしょうね。
E:一月の話かと思ったら裏切られた、ということ。あとは一九夜の自殺の話が印象に残った。あとは、自然の描写がいいな、素晴らしいなと思いました。花鳥風月というか。人間と同じくらいか、それ以上に、海とか木とか鳥とか花とか虫とかが出てきます。僕は好きでした。アンデルセンは自然に目を向けている人なんだなと思いました。発想が面白いです。世界を月の目線で旅するアイディアが面白いです。我々は月を見ているんだけど、月も我々を見ているんだ、そういう考え方があるじゃないですか。自分が海を見ているのか海が自分を見ているのかわからなくなってきたという話です。そんな感じもすごくいいなと思いました。月の視点に立つことで物事を俯瞰するということが語り口として新鮮でした。「人の生き死に」に関するスケールの大きさ、「こんなことを見てきたんです」と言っても月は人間の歴史を見てきたことになります。神話のような話になります。「モーセがシナイ山に行ったのを見てきたんですよ」ということがあります。私たちも飛行機に乗って街を見下ろすと「自分の人生って小さいんだな」と思うことがありますよね。それをもっと引きで見ていく。それが鳥の目、月の目だとすると、一方で虫の目もちゃんと描かれていました。「パンにバターがあればいい」というのは虫の目ですよね。虫の目を描く時には、月は月光として現れます。「私は窓の隙間からあの子に差し込んだのです」と月が語ります。引きで見るときは地球を見下ろす目です。視点の移動のダイナミズムがあると思いました。
B:僕が一番好きだったのは、二八夜なんです。特に何もなく短い。海面に白鳥が入っていって去っていくだけ。「『寂しく』飛んで行きました」とあります。「なんで寂しいとわかるのか」と言われそうですが、その辺りがいいなと思いました。自然の、鳥が飛んだり水がはねたり、そんな描写と、そこに月の目線で見たものが書かれています。「寂しく飛んで行った」ように見えたんでしょうね。ストーリーがないのに、この描写だけでこんなに書けるんだというのがすごいと思いました。全編を通して、月の悲しみ、のようなものがあります。そもそも夜しか見えません。自分はいやがおうにも動いてしまいます。地球の自転によって距離が変わっていくということなんだけど。月は夜について全てを自分の範囲を見ています。ある人は自殺することを一度はやめたけれど、やはり自殺してしまう。そんな様子を見るわけです。でも月は介入できないんです。介入しようとしている感じがそこらに書かれています。ちょっと動く。僕らからすると月の光が差したりする。月目線で、「キスをしました」というような表現もあります。
A:月目線だと「すべる」とか「なでる」とか書いていますね。
B:細い路地も角度的に入っていけないかもしれません。入っていけても一瞬かもしれません。そして自殺をしようとしている人を止められるわけでもない。ただただ自然現象として動いている。そして意識がある。それは悲しいなと思いました。10年間の話もしていました。月だけは変わらずに回っています。見ている景色の対象である人は成長して大きくなっています。これは月目線にしたからこそできる表現なんだよなと思いました。あとは訳によって全然違って感じますね。最初に矢崎源九郎さんの訳を読んでとてもいいなと思いました。
E:谷川俊太郎さんが訳したらどうなるんだろう、とも思いました。いいんだろうなと。
B:でも谷川カラーになってしまう可能性はありますよね。
E:フィットがいいというか。谷川が書きそうなことを書いていますよね。『一億光年の孤独』のような話ですよね。
A:詩的ですもんね。そこは村上春樹ではないんですよね。
E:村上春樹は違いますね。「やれやれ」みたいになっちゃうから。「僕がパスタを茹でていると」と書き出しますね。
A:「僕」は出てきそうです。
E:パスタ茹でがちですからね。ビールも飲みがち。
A:さっき話に出ていた「悲しみ」とか「俯瞰した目線」というところなんですけど、「窓」もキーワードかなと思いました。
B:間に入っているから。
A:そう。常に窓が間に入っていて、見えているんだけど、カーテンを閉められると何も見えなくなります。何もできないんです。たまたまカーテンが開いていたんだ、という話をします。そのときはちょっと嬉しそうに話しているように感じました。でも見えないところがある。どうしようもない時がある。そんな悲しさがあるなと思って読んでいました。
B:かなりはじめにカーテンを閉められてしまったという話をつくったら面白いかもしれないですね。その時、カーテンが閉められました…終わり、という話。
A:視点が地理的に飛んでいく話もありましたよね。
B:中国やインドに行っていますよね。
D:インドに行っていましたね。
B:中国も行っていたよね?
C:行っていました。
A:話の中で飛んでいくのもありましたよね?
B:一つの夜の中でですか?
A:忘れちゃいました。私は途中までそれぞれにオリジナルのタイトルをつけていたんですけど飽きちゃいました。
B:どういうこと?第○夜にタイトルをつけたということ?
A:そうです。
B:あっちに行ったりこっちに行ったりという話ありましたっけ?
C:あったような気がするんですけど、国をまたがっていたか…。アフリカの商人のところに行って…。
B:それってどうやって行けるんだろう。
A:二四夜です。私が思っていたのは二四夜でした。
B:コペンハーゲンから始まって…。バチカン、スフィンクス、ナイル、…そうですね。
A:ここはすごく飛んでいるなと思ったんです。
B:でもこれはおそらく月目線の回想なんですよね。違うか…。
A:その場所を後にして別なところに、とありますからね。ダイナミックな話なんです。
B:月が話したことを聞いてください…やはり訳によって全然違いますね。
D:「月が話したことを聞いてください」と書いてあるんですか?
B:なんて書いてありますか?
D:ここは、「月が物語る話を聞くがよい」とあります。
E:へ〜。
B:全然違う。すごい。山室静訳は「まあ月がどんな話をしたか聞いてください」です。ほぼ同じです。
D:すごく偉そう。「聞くがよい」。
B:最後の三三夜はどうですか?
A:そこ気になっています。
D:すると子どもが答えます。子どものセリフが「おこっちゃいやよ、ママ。あたいね、こんなふうにお祈りしたの。それからパンの上にいっぱいバターをつけてくださいましって。」です。
B:「くださいまし」まではわかるけど、「あたい」って。
C:読み聞かせしたら面白いですね。
B:「聞くがよい」とか「あたい」とか、そういう風味が入っているんですね。
D:「めぐみたまえ」とか書いています。
A:最後って面白い話なんですよね。
B:主の祈りって「この食べ物を与えてくださってありがとうございます」と言いますよね。でも「バターもほしい」って言う。そういう子どものお祈りってあるじゃないですか。ということですよね。
A:私はずっと読んでいて最後どうやって終わるのかなと思っていました。「バターもたくさんつけてくださいましってね!」で終わって、複雑な気持ちでした。不完全燃焼でした。
B:全体のストーリーは無いですからね。
E:僕は『バベル』という映画を思い出しました。アカデミー作品賞でしたっけ?日本とエジプト、何ヶ所かのオムニバスカットです。ストーリーが並走します。それがつながるかというとそうではない。それぞれに悲喜交交がある。この映画で日本人の俳優さんが海外に出たんですよね。
B:菊地凛子さんですね。
E:そうそう。彼女が聾唖者という役でした。オチもなくただ見せていくという語り口が似ていると思いました。
B:なんで『絵のない絵本』というタイトルなんでしょうか。
A:なんでだろうと思っていました。そして「わたし」は画家なんですよね。
E:うんうん。
B:いわさきちひろさんは、絵をつけてしまっているんですよね。矛盾しちゃっています。『絵のない絵本』という絵のある絵本です。なぜこのタイトルなんでしょう。はじめに書いてありましたっけ?
C:わたしの話すことを絵におかきなさいと話しかけてきた、と。これをもとに絵を描いて、と。
B:絵はないけれど、月の語る様子がまるで絵を見ているようだったということ?
E:全ての話が絵画的ではあるんですよね。音というよりは視覚なんです。月は静かに音を立てないイメージですし、絵画的に描写しているのかもしれません。
B:そうすると、やはりこの本に絵をつけてはいけないということですよね…。
E:でも、主人公の立場になると、月が大喜利を出してきたわけです。君ならこれをどうやって絵に描くの?って語りかけていますから。それに対していわさきちひろさんがレスポンスしましたよということであれば、成立はするかなと思います。
A:絵を描かない画家って矛盾していますよね。そういうことを全体として言いたいのかなと思いました。演じない役者も役者ではない。演じられない役者も。そうかなーと思ったけれど、そのようなことがしっかりと散りばめられているわけでもない。
D:私の持っている本の訳がなぜ古いのかと思ったら、昭和44年の本でした。
B:そのときは「あたい」だったんですね。
E:子どもといえば「あたい」だったんでしょうか。
D:『積木くずし』とかでしょうか。
B:『積木くずし』はわからないです。
D:不良少女の話ですよね。
B:多分世代じゃない。
D:何言ってるんですか。私も世代じゃないけど。
B:最初に画家としての話を書いているけど、だからといって三三夜で回収するわけではありません。
A:「終わりに」があってもいいはずです。
B:そうですね。しかも序文の最後のところ、不思議な感じで終わりますね。月は毎晩来てくれたわけではない…。そして第一夜。
A:全部月の言っていたことではなく、自分の考えも混じっているとあります。
B:そうなの?月が言った通りに書いたんじゃないの?
A:自分の考えも混ざっていると書いてあります。
B:本当だ。なるほど。
E:面白いですね。
C:よく小説とか童話って「神の視点」で書かれていますよね。上から見ているような視点です。よくそんな書き方をしていますが、この『絵のない絵本』はそうではないんです。全てを知っている視点で書いているのではなく、雲に遮られてしまうんです。そこは面白い部分だと思います。
B:上から見ている目線も、自分の身体性をもっています。だからどうしようもないことがある。「もうちょっと見ていたい」と思っていても、時間が経つとずれてしまう。Aさんが言っていたようにカーテンを閉められてしまう。月の認識、月の視点に、身体性をもたせているのは面白いですね。そこが一番面白いところかなと思います。
A:今のCさんの話でいうと、「自分が全てを組み立てたわけではない」という宣言がされているということです。「私にも理由はわからない」というようなことです。他の小説ではあり得ない設定です。
C:それをあえて一番はじめに入れているのは、読者に伝えたいことだったのかなと思いました。「神ではない」ということです。面白いなと思いました。
B:二四夜のように「月が話したことを聞いてください」と書いてあるのは、画家である「わたし」が読者である私たちに語りかけている、ということですよね。大体他は「月が話しました」というような感じです。そんな表現の仕方にも違いがあります。
E:最初の文に『千一夜物語』が出てくるじゃないですか。読んでいないのですが、これってアラビアンナイトのことですよね?
B:そうそう。
E:『千一夜物語』は○夜〜として進んでいく物語なんでしょうか。読んでいないのでわからないのですが。
B:読んだことないのでわかりません。読んだことある人いますか?
A:私は無いです。
B:あれってやたらに長いんですよね?
E:いつか読みたいリストには入っているのですが、手が出ないんですよね。
D:アラビアンナイトのなかに、「アラジンと魔法のランプ」が入っているんですか?
B:わからない。
E:いわゆる古典ですよね。
D:アラジンってアラビアンナイトの一部だったような気がする…。
A:アラビアンナイトって「開けごま!」ですよね。
D:開けごま…。
E:そういう冒険談なのでしょうか。
B:ちなみに調べてみると、ちくま文庫だと全11巻セットになっています。
E:アラビアンナイトの進め方が第○夜〜というような感じなら、『絵のない絵本』はそれをなぞったのかなと思ったんです。
B:アラビアンナイトってすごく古いんですか?
E:古いと思いますよ。
C:調べると、「枠物語」という分類がされているようです。導入部の物語を外側として、その内側に小さな物語を埋め込んでいる、入れ子構造の物語形式のことのようです。
B:は〜。
C:短編が物語の中に入っているということですね。『絵のない絵本』と同じ感じなのかもしれません。
B:『千一夜物語』、手を出す気になれないですね…。
E:古典なんですね。写本がたくさん出てきて…というような記事もあります。
B:どこかでは読んでみたいですね。シンドバッドとか、アラジン、アリババも入っていますね。
D:ふーん。
A:『千一夜物語』ってやなせたかしさんがアニメーションにしていませんでしたっけ?
E:知らない。
A:『アンパンマンの遺言』に書いていたような気がします。不確かな記憶ですが。
E:確かに、『大人の絵本 千一夜物語』という、手塚治虫とかやなせたかしが関わっている本がありますね。
B:他にもあります。…ここも沼ですね。
E:沼です。
B:抜けられなくなる。危ない、危ない。
E:はじめに、のところで、それぞれの月が語った物語を優れた才能に〜とありますよね。読みながら、一つ一つで一本の小説が書けそうだなと思ったんです。読みながら、この第何夜を膨らませると一冊の小説になるなと思ったんです。お話しの種を集めたものなんだなと思いました。手塚治虫の『鉄腕アトム』のプルートウという回を、浦沢直樹が8巻の漫画にしましたよね。「そういうことをしたまえ」というようにアンデルセンは言っているのかなと思いました。
D:『プルートウ』は面白いんですか?
E:面白いです。
B:大人買いをして読みました。何年か前に。
E:手塚治虫版だと、たった10ページくらいなんですよね。
B:そうなんだ。
B:では、そろそろ次を決めましょうか。
D:次は『クリスマス・キャロル』なんですよね?
A:そうそう。『クリスマス・キャロル』かなと思っていました。
B:『クリスマス・キャロル』も訳がいろいろあるのでしょうか。
E:多分ありますよね。
B:村岡花子さんの訳があるんですね。村岡花子さんって『若草物語』の?違ったっけ?
E:『花子とアン』ですよね。
B:『赤毛のアン』ですね。『クリスマス・キャロル』、読んだことがある人はいるんですか?
D:ディズニーの。
E:僕もディズニーの映画を見ただけです。アニメーションは良かったです。
A:新しいやつですか?
E:新しいやつ。と言ってももう10年くらいになりますが。
B:光文社古典新訳文庫でも出たんですね。三種類あるようです。古典新訳文庫、角川文庫、新潮文庫、あとは岩波少年文庫。
A:『ディケンズ物語』じゃないですよね?
D:『源氏物語』?
A:『ディケンズ物語』。
D:ふっふっふ。
B:『クリスマス・キャロル』は、ディケンズの中では代表作ではないですよね。
E:僕はもうディケンズと言えば『クリスマス・キャロル』だと思っていました。他には…。
B:『デイヴィッド・コパフィールド』とか。『大いなる遺産』とか。
D:『大いなる遺産』聞いたことがあります。
B:有名なのは『クリスマス・キャロル』なんですね。クリスマス・キャロルと言えば稲垣潤一なんですけどね。
D:あー古い。
B:福山雅治が出ていました。
D:え、そうなんですか。
B:福山雅治はあのドラマに出ていたんですよ。
D:へ〜。
B:あとは清水美沙。
D:名前が懐かしいです。
B:あのドラマ好きだったな。唐沢寿明。
A:日程はいつにしましょうか。二週間空けると、14日の週になるかなと思います。
…
A:では14日の16:00〜17:00でお願いします。
B:これで今年は終わりですね。年末に何を読むか考えないと。これですね。『やし酒飲み』。
A:年末年始に『やし酒飲み』いいですね。お正月らしい。
E:「やし酒」っていうお酒があるんですか?飲み物としてあるの?
B:ないらしいです。だってこの本では10歳から飲んでるわけですから。いわゆるマジックリアリズムというか、本当には全然ないような話を書く、アフリカとかラテンアメリカの文学にはそんな特徴があるようです。
B:そう言えば、『ガリヴァー旅行記』、とてもおすすめです。
D:島に行くやつですよね。
B:子ども向けのやつはかなりデフォルメされているから、全然違っています。他にも子ども向けと大人向けでは全然違う作品ってありますが、「『ガリヴァー旅行記』が一番違う」という記事もありました。Cさん読みましたか?
C:読んでいないです。
B:超絶に面白いです。後半は馬の国に行くんです。
C:小人の国じゃないんですか。
B:最初に小人の国に行って、巨人の国に行って、半身半馬のような国に行くんです。そういう冒険を繰り返すうちに、彼は自分が人間であることに戸惑いを感じてくんです。最後はむしろ馬と繋がりたいと思うんです。馬の国に最後行くんだけど、自分たちよりもよっぽどこの人たちの方が理性的であると思うんです。そして元の世界に帰ってきます。僕らの世界。その世界でいわゆる普通の馬を見て「馬になりたい」と思う話です。当時の社会風刺になっているわけです。そんな作品です。
E:面白いですね。
B:もっとおすすめはこれです。『ドン・キホーテ』。
E:それはいつか読みたいんですよ。
B:これは最高なんだけど、六冊もあるんです。
D:もうお腹いっぱい。
B:『ドン・キホーテ』はすごいですね。
E:読まなきゃと思っていました。面白いんだ。やっぱり。
B:面白いですね。『ドン・キホーテ』を書いたセルバンテスが参考にしたという、『ティラン・ロ・ブラン』という本もあります。これは四冊本なのですが、いわゆる騎士物語です。『ドン・キホーテ』は騎士物語をパロディしている。小説を読んで爆笑したことはこれまでありませんが、『ドン・キホーテ』は「はっはっは」と笑いますね。
A:それは『阿Q正伝』以来ですね。
B:おそらく『阿Q正伝』は『ドン・キホーテ』の流れからですよね。中国の近代文学の初めは『阿Q正伝』だと言われています。おそらく「近代」ってそういうことなんですね。パロディにするということ。昔は伝統だからこういう形式なんだ、とされていた。『ドン・キホーテ』は中世に流行った騎士物語の「男たるものこうあるべき」というものを徹底的に風刺しています。それがあまりにも流行って、セルバンテスではない他の人が続編を書いちゃったんです。『続ドン・キホーテ』を書いちゃった。
D:勝手に。
B:セルバンテスがそれを知って、他の人が書いた続編を自分の書く続編に入れ込んじゃった。というのがすごいらしいんです。セルバンテスのすごさ。
E:ふーん。
B:熱く語ってみました。
A:お正月は二週間以上空くと思うので、次回、多少長くてもいいので「読んでみたい本」を持ち寄って考えるというのはどうですか?
B:いいんじゃないですか。少し長いやつも。
A:多少長くてもいい。薄くてダメなわけじゃないけれど。
D:「映画もあります」というものだといいな。
B:『ガリバー旅行記』はありますよね、映画。『ドン・キホーテ』もありそうですよね。『百年の孤独』の映画はないですよね。
A:なさそうです。
D:最悪はお酒を飲みます。
A:高いお酒ですよね。
B:子ども向けのやつを読んだDさんとディカッションするのは面白いですね。
A:こないだ衝撃的でした。
E:そっちの方がいいっていう。
D:意外とね。
A:そろそろ時間です。ラジオ参加の方もありがとうございました。それではまた。