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G suite導入顛末記 その2 G suite導入以前の情報共有システム

 北海道が緊急事態宣言の「特定警戒都道府県」に指定された時点で、稲生会では本格的に在宅ワークを導入することに決定した。
 
 目標は、社会全体の「人との接触を8割減らす」に合わせて「事務所出勤者を全職員の2割まで減らす」こととした。稲生会の職員は75名、2割となるとたった15名である。もともと稲生会は、訪問看護や訪問リハ、居宅介護の職員について「直行直帰」を認めていた。つまり、もとから事務所にはほとんど来ない職員も存在してはいた。とはいえ、多くは事務所に出勤することが基本となっており、毎朝40~50名ほどの職員が事務所3階に集まって全職員ミーティングを行っていた。
 
 朝ミーティングについて、2018年度半ばからは、直行直帰の職員向けにZoomを利用してリアルタイム配信を行っていた。また、法人内の会議や勉強会などは、Zoomでの参加や、録画配信などを行うことはあった。もっとも、Zoomを利用して朝ミーティングに参加するのは、多くても数名であった。
 
 朝ミーティング以降の情報共有については、電子カルテや訪問看護のシステムに連動している株式会社ワイズマンの「メルタス」というシステムを2016年度から活用していた。

株式会社ワイズマンのホームページ:稲生会におけるメルタスの導入についての記事
https://www.wiseman.co.jp/melutasu/case/case01.html

※リンク先に動画あり。「チンピラみたい」と妻に大不評だった土畠の映像が見られます(笑)「今の技術でボタン閉めたりできるんじゃないの?」と何度も言われました。

 メルタスはWebベースの情報共有システムで、パソコンはもちろん、業務用スマートフォンでも利用できる。電子カルテや訪問看護の記録の閲覧が可能な他、掲示板・回覧板機能、職員間のメール送信などが可能だが、稲生会で最も活用していたのは「会議室」機能である。 
 テーマにそって「会議室」を立ち上げることができ、そこを掲示板のように活用してテーマにそった情報共有を行うことができる。2020年6月現在、138の会議室が存在している。

 会議室も含め、基本的には全ての職員が全てのデータにアクセスできる状況としている(もちろん個人間のメール内容は閲覧不可)。メルタス導入前までは「一気に職員が増えて、お互いが何をしているかわからない」「法人内のコミュニケーションが不足している」という声が徐々に大きくなっていたが、メルタス導入後は逆に「情報が多すぎてついていけない…」という声に変わったくらいであった。
 
 メルタスを導入したのは2016年4月だったが、当初は誰も活用せず、私が一人で掲示板に「みんなメルタスしようよ」「誰もメルタスしてくれない…」「メルタスしても一人」と孤独に投稿を続けるのみだった。システムはあくまでシステム。「~できる」がすぐに「~する」に変わるわけではない。重要なのは、そのシステムを「自分たちがどのように~するのか」という内部のルールづくりである。メルタスのときは、システム導入から2カ月経過した時点で、「内部でルールづくりをしよう」ということになった。各事業所、各チームで投稿すべき内容や方法、投稿してもよい時間などについてルールを決めた。こうなると動きが一気に加速するのが稲生会という組織。ワイズマンさんによると、その後1カ月くらい経過したところで、「全国で最もメルタス活用頻度が多い組織」になったと聞いた。

 
 その後、メルタスを活用して法人内で情報共有をしていくわけだが、その限界が明らかになったのが2018年9月6日の北海道胆振東部地震のときである。メルタスは、WebベースのシステムでありSNSのようなアプリではないので、インターネットを使用してシステムにログインして、そこからまた目的のページに入って…といったように、「迅速性」はない。パソコンであればそれなりのスピードで利用可能だが、業務用スマートフォンでは通信速度や画面サイズの問題もある。
 
 震災の時は、職員数が65名、震災当日はそのうち12名が事務所にかけつけて患者さんの安否確認や電源確保を行い、それ以外の職員は自宅で情報収集を行い、必要に応じて自宅近くの患者さんへの対応を行った。つまり、事務所出勤者が約2割、残りは在宅ワークでそこから直行直帰、というスタイルだったわけである。
 
 「迅速な情報共有」が必要とされたこの局面で急遽活用することにしたのは、SNS(LINE)である。これについては、これまでくり返し講演や論文で述べてきたところなのだが、当時の在宅患者さん190名全員の安否確認・電源確認を終えるまでの約2日間で、1,443件のLINE投稿により、膨大な量の情報を全職員で共有して行動した。LINEを活用していなければ、乗り越えられなかっただろうと思う。
 
 とはいえ、「チャット」という、迅速ではあるがプライベートとの区別が難しいシステムをその後も活用することは、選択しなかった。また、緊急時は仕方が無いとは言え、やはりセキュリティの点からも、平時の情報共有としては利用すべきでないと考えた。「また緊急事態が起こった時のために」ということで法人職員のLINEグループは残したが、幸いにもその後は活用することはなかった。情報共有システムとしては、またメルタスに戻っていった。