連載「働くことを考える」
第1回 「私」と「働く」
2021.1.29
___みなさんは、何のために働いていますか?
生活のため。家族や誰かのため。生きがいや、やりがいがあるから。時間があるから……。
そんなことを考えることもなく、当然のこととして働いているという人が多いかもしれません。
障害のある方々にとって「働く」ということは、決して当然のものと呼べる状況ではありません。
障害がある中で仕事をするためには、様々な支援や配慮が必要になります。なので、一般に経験するような流れで当たり前に働くというのは難しい状況です。
【働くことを考える】では、「障害」と「働く」をテーマに、障害がある中で働くということ、社会や制度の現状、今後の可能性などについてを考えていきます。
多様性を掲げる社会の中で、障害のある方も「働く」という機会を得るためにはどうすればいいのか、現状や実際に働いている当事者の声なども参考にしながら考えていければと思っています。
連載初回となる今回は、 重度身体障害の当事者でもある「私」と「働く」についてです。
現在私が携わっている仕事の紹介と、その仕事を始めるまでの経緯などをお伝えします。
仕事についてお話する前に簡単に自己紹介をします。
私には、脊髄性筋萎縮症という生まれつきの障害があります。脊髄性筋萎縮症とは、全身の筋肉が徐々に衰えていく難病です。夜間のみ人工呼吸器を使用し、電動車椅子に乗って生活しています。
日常生活全てに介助が必要で、右手の指先で車椅子のジョイスティックとパソコンのマウスを動かすことくらいしか自分ではできません。
私は中学生の頃から長期療養病棟に入院し、昨年退院しました。
現在は札幌市でヘルパー制度を利用しながら一人暮らしをしています。通信制の大学での勉強も並行しながら、仕事をしています。
・みらいつくり研究所のライター
哲学学校の報告を書いたり、この連載を書いたりしています。その他みらいつくり研究所の業務もしています。
・大学や専門学校でのゲストスピーカー
学生さんを対象に障害に関するお話をしています。障害のある方に関わったことがない人も多く、そういった方々に対して「障害とは」「支援とは」などといったことを、一緒に考える時間を作っています。
・障害・福祉関連の研究室での業務のお手伝い
不定期で行われるミーティングに参加して、出た福祉機器などの情報をまとめてメールマガジンで配信をしたり、福祉機器の情報をまとめるホームページの更新作業を行っています。
上記の3つが、今の私のメインとなる仕事です。
どの仕事も、障害や福祉に関連しています。どの仕事も、オンラインで完結するものです。ゲストスピーカーの仕事も、Skype や Zoom などを用いてビデオ通話で行なっています。
基本的には家から一歩も出ることなく仕事をすることができます。
こうして挙げてみると、たくさんの仕事をしているように見えるかもしれませんが、実際はそうでもありません。
それぞれの仕事は、依頼があって行われるものなので、ゲストスピーカー業務などは一年に数回行っている程度です。その他の仕事も無理のない範囲で行なっています。
私は、1日8時間、1週間に5日間という一般的な働き方で働くことは難しいと感じていました。病気の影響もあり疲れやすく、生活リズム的にも長時間続けて働き続けることは難しいし、それを毎日続けるということは、体調を崩しやすくもなります。
そのため、「無理をせず出来る範囲でできることを」という方向性で働いていこうと考えています。
私は、はじめから現在のような働き方をしたいと考えていたわけではありません。
学生の頃はそもそも働くということを真剣に考えたこともなく、なんとなく「大人になったら仕事をしたい」と思っていた程度でした。
そんな私が働くということについて考え始めたのは、高校を卒業する直前のことです。
高校3年生頃の私は、当時入院していた病院を退院し、大学に進学することを考えていました。
諸々の事情でそれは叶わず、高校卒業後も継続入院をすることが決まったのは高校卒業間近のことでした。突然の進路変更となり、当時は進学するという考えしかなく、改めて卒業後の生活について考え直す必要が出てきました。
病院での卒業後の生活は、リハビリ室でスポーツをしたり、作業療法室でイラストを描いたり、療育指導室で創作活動を行ったりなど、余暇を過ごすための活動が多く、「働く」ということをしている人はほとんどいませんでした。
私も先輩方と同じように暮らしていくのかな?と思っていましたが、できるなら働きたいという思いは漠然とありました。
働きたいと思っても、どこでどんな仕事をするのかは全くイメージできずに困っていました。
このままでは進路が定まらないまま卒業という危機感もあって、当時繋がりのあった、東京大学先端科学技術研究センターの中邑先生(障害者福祉関連の研究室の教授)に相談しました。すると先生は、わざわざ東京から私のいる北海道の病院まで、会いに来てくれました。
「卒業したら大学に行こうと思っていたけれど、難しくなってしまった。働きたいと考えているが、どうすれば働くことができるのか全くイメージもつかない。どうしたらいいのだろう」
そんな漠然とした話も、先生は真剣に聞いてくれました。最終的には、「(先生のいる研究室で)アルバイトをしてみたら?」とお声掛けいただき、その研究室で働き始めることになりました。
その後、作業療法(OT)の先生から、先生の担当している専門学校での講義を手伝ってほしいというお話をいただき、そこから講義の仕事も始めました。
そのような仕事を続けていく中で、みらいつくり研究所の活動のことを聞いて、お手伝いをさせて欲しいと声をかけたことから、みらいつくり研究所での仕事も始めることになりました。
このように、私の場合は「つながり」が、仕事を始めるきっかけになっていることが分かります。
学生の頃は、絵を描くことが好きだったことから、イラストレーターになりたいと考えたりもしていましたが、全く違う障害・福祉の分野に携わることになっていました。
まだ働くということをする前の私は
「障害当事者だからといって障害・福祉関連の仕事をするのは、あまりにも安直だ。普通に働けた方がいい」
と思っていました。
この、「普通に働く」とはどういうことでしょうか?
【高校や大学を卒業した後に就職活動をして、どこかの企業に就職する。正社員として1日8時間、週5日働いてお給料もらう。それを定年まで続けること?】
簡単にイメージする内容としては、このようなものが挙げられるのではないでしょうか。
このような働き方が「普通」だと感じていた当時の私ですが、普通に働くために何かをしていたわけではありません。そのような働き方が当たり前だから、自分も同じように出来れば良いと考えていただけでした。
そもそも入院中で、上記のような働き方をすることは現実的に不可能でした。
「とりあえずできることからやるしかない」ということで、少しずつ仕事をしていくうちに、今のような「無理をしない範囲で自分にできることができればそれで充分」という考え方に変わっていきました。
現在は新型コロナウイルスの影響もあり、働き方そのものが大きく考え直される世の中になっています。
上に挙げたようなものを「普通に働く」ということだとすると、障害の有無に関わらず多くの人々が「普通に働く」ことが難しくなってきているかもしれません。
感染予防のために、テレワークという働き方が推奨されています。自宅にいながら、パソコンを使って仕事をする。そんな新しい働き方も目にするようになってきました。
「働き方」も急速に変わっている世の中で、私自身の「働き方」や、障害のある方にとっての「働く」ということについて、今後の連載で考えていければと思っています。
初回である今回は、「私」と「働く」ということについて、中でも私が今行っている仕事の紹介とその仕事を始めるまでの経緯をお伝えしました。
次回は、私が実際に働いている中で感じていることなどをさらに掘り下げて行きます。
執筆:吉成亜実(みらいつくり研究所 リサーチフェロー兼ライター)