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第14回みらいつくり読書会 開催報告

みらいつくり大学校企画
第14回みらいつくり読書会@zoom

【課題図書】
ソポクレス『オイディプス王』

【実施日時】
2020/10/19 16:00〜17:00

【参加者】
A,B,C,D(+ラジオ参加1名) 全5名

【内容】
A:今日は試しにあらすじを板書にしてみました。あらすじをお伝えすることも多いので、ストーリーを軸に登場人物中心にまとめています。前回たくさん人が来てくださっていたのは、時間帯の問題ではなく、課題作品が『星の王子さま』だったからでしょうか。
B:悲劇じゃ無理かー。
A:そしてギャップがすごいですもんね。『星の王子さま』から『オイディプス王』ですから。でも素晴らしい作品だと読んで思いました。私は読んで、やはり劇として観てみたいと思いました。演劇としてこの本がどうやってつくられるのかについて興味があります。途中にある歌の部分については飛ばしながら読んでしまいましたが、歌を入れて演じたら迫力もあるだろうなと思いました。私は『海辺のカフカ』を読んだことがありません。今回『オイディプス王』を読みながら、『海辺のカフカ』も読みたいなと考えて検索をすると、『海辺のカフカ』を蜷川幸雄が演劇にしているという記事を見つけました。演劇としてつくられた『オイディプス王』を村上春樹が『海辺のカフカ』として小説化し、そしてその小説を蜷川幸雄が演劇化しているということです。とても興味深く、いつか観てみたいと思いました。内容について、私が興味をもったのは、神観についてです。私はどうしても聖書と比較をしてこの悲劇を読んでしまいます。『オイディプス王』を読むと、聖書が預言者の目線で書かれていることが多いんだなと改めて感じました。王の目線で書かれることはあまりないように思います。逆側から書いたらどうなるだろうと考えながら、聖書の読み方にもつながると思いました。神観についていうと、イスカオテについて気になりました。イスカオテはオイディプスの母であり妻です。色々な人たちがアポロンを中心とした神について述べていきますが、イスカオテは他の人たちよりも神を疑っているように感じました。予言というものを疑っています。「本当の予言のわざなんてないんだ」というようなセリフがあります。「運命の支配が全てだ」とも語っています。つまり運命論者として描かれていると言って良いと思います。『オイディプス王』に出てくる全ての人がアポロンを信じているわけではなくて、運命論が入り込んでいます。そんな部分が面白いなと思いました。
C:私は今回読んでいません。今回の本が今までと違うのは、Wikipediaにとても詳しく載っているんです。他のサイトでも詳しく内容について触れていました。それだけ有名な本なんだなと思いました。サイトには「フロイトの先入観が」とか書いてありましたが、私はそんな先入観はありませんでした。先ほどAくんが言うように蜷川幸雄さんが演劇にしていると書いているものもありました。すごく有名な話なんだなと思いました。私も劇の方を観てみたいです。頭が人間で足がある…。
B:スフィンクスですね。
C:そのスフィンクスは、私の大好きな『ネバー・エンディング・ストーリー』にも出てくるんです。そういう神話は、映画の中でも使われているんだなと思いました。『ネバー・エンディング・ストーリー』はミヒャエル・エンデが書いた本ですが、引用されているところを見ると、今回の課題作品が元ネタになっているものも多いんだなと思いました。どのサイトにも「一回は読んだほうがいい」と書いてありました。「いつかは読みたい」と言ってしまうと、「いつか」は来ないのかもしれませんが、読みたいなと思いました。個人的にはこのカタカナの名前は頭に入ってきづらいなとも思いました。しっくりはきませんでした。以上です。
D:僕は光文社で読みました。河合さんという人が訳しています。人物相関も載っています。系図が載っていました。筋がわかった自信はあまりないのですが、入り組んだ話ではないような気がします。ただ、途中で歌が入ったりとかする文法に慣れないと、よくわからないところもあるなと思って読みました。僕はこの『オイディプス王』には作者がいないと思っていたんだけれど、しっかりいるんですね。ソポクレス。ギリシャ悲劇の巨匠なんですね。河合さんの解説が面白かったです。「ギリシャ悲劇演劇祭」のようなものが当時あって、そこで18回優勝しているという記録が残っている人のようです。120以上書いた劇の中で現在残っているのが10もない。ほとんどが失われた資料になっているんですね。書かれた時期が紀元前なので、解読も、当時使われていたギリシャ語と今使われているギリシャ語があまりにも違うので、今のギリシャ語で韻を踏んでいなくても当時ならば踏んでいることがあるようです。当時使われているギリシャ語ではこのニュアンスではないということもあるようです。新約聖書を読み解いていく感じ、訳すること自体が読み解きなんですよね。そんな意味で勉強になりました。物語という意味では原点ですよね。これより古いものって、『イーリアス』とかになってきます。『ホメロス』とか。シェイクスピアにも目をつぶす話が出てくるらしいのですが、これを意識していると書かれてもいました。色々なものの元ネタになっているんだなという感想ですね。ギリシャ悲劇という分野については知っていましたが、初めてそのものを読めてよかったなと思っています。ギリシャ悲劇は「運命劇」であると言われます。平野啓一郎という作家がいます。芥川賞作家で『マチネの終わりに』という本を書いています。映画化もされています。すごく面白いです。一生懸命読みました。音楽家の話です。福山雅治で映画化されました。
B:映画も見たということですか?
D:映画は見ていません。小説を読みました。小説がすごく面白かったです。音楽家の話です。平野啓一郎は蒲郡の出身で、僕と同じ町の出身です。僕よりも若くて、蒲郡からすごい人が出てきたなと思っているんです。
B:ギリシャから蒲郡の話に飛びましたね。
D:蒲郡って、愛知県の中でもマイナーです。蒲郡って名前からして、濁音が二つも入っている…ダサいというか。北海道でいうと…。
B:僕も濁音二つの出身だから親近感ありますよ。
D:蒲郡ってなんだか「おじいさん」ですからね。そういう自虐もあって「蒲郡からなんの良きものが出ようか」そんな気持ちがあるわけです。最近すごいのは、千賀というソフトバンクのエース、日本のエースがいます。彼は蒲郡高校出身なんです。平野啓一郎と千賀。
B:「蒲郡神話」の話になってきましたね。
D:なんの話をしていたんでしたっけ。それで、平野啓一郎が書いた『マチネの終わりに』の中のヒロインも主人公も国際派なんです。中東戦争を取材している記者だったり、お父さんがアメリカに住んで映画監督をしていたりしています。ヒロインがアメリカに住んでいるお父さんと話すシーンがあります。その中で、そのお父さんがヒロインに言ったセリフが僕の中ではずっと心に残っています。19世紀・20世紀に人が物語を書くときには、それらはずっと「英雄劇」であったというんです。要するに人が運命を変えるという話なんです。『ロード・オブ・ザ・リング』にしても『ナルニア国物語』にしても。それ以降ずっとそういう話だと言うんです。『はてしない物語』もそうですし。英雄譚が描かれ続けたんだと。「ここへ来て人類はもう一度『運命劇』に戻ろうとしているのかもしれない」、みたいなことを言うんです。それは、この時代には、あまりにも一人という人の力が無力で、むしろこの世の中というものに人が翻弄されていく、そんな時代に「英雄劇」は人の心に刺さらなくなってきている。それはあまりに現実と違いすぎるから。むしろ、ギリシャ悲劇のような「運命劇」のようなものを、人は求めるようになっていると思うのだ、と言うんです。それを読んで思い出したのは、村上春樹です。村上春樹は、いつも運命劇を書きます。主人公の主体性は何もありません。本当に常に流されていく人の話なんです。そして彼が『オイディプス王』をモチーフにしているというのは必然なんだなと思っています。元ネタを読んで、運命というものから逃げられないという話なんだと思いながら読みました。そんな感じです。
B:めちゃ面白く読みました。僕もギリシャ悲劇を初めて読みました。『オイディプス王』が「エディプス・コンプレックス」の始まりであるというのは知っていたけれど、読んでいませんでした。むしろ読まねばならないギリシャ神話ってどちらかというとホメロス『イーリアス』『オデュッセイア』です。岩波から分厚い本で出ているんです。そっちはどこかで読まねばならないと思っていました。『オイディプス王』は実は三部作なんですよね。『オイディプス王』が第一部です。そして『コロノスのオイディプス』が第二部。第三部が『アンティゴネー』です。要するに、一作目は、オイディプス王が知らずに自分の父親を殺し知らずに自分の母親と交わってしまったという話ですよね。そして自分の目をつぶして神託通りに街を出ていく話です。『コロノスのオイディプス』ではオイディプス「王」ではなくなっています。王ではないからです。テーバイから出て行った盲目のオイディプスと、娘のアンティゴネーが出てきます。アンティゴネーは娘であり妹なわけです。その娘に手を引かれて、コロノスという街に行きます。そこにはテセウス王というのがいます。こないだテレビでやっていましたよね。『テセウスの〜』
というドラマがありました。
C:ドラマやっていましたね。
B:ギリシャ系の名前をつけるのが好きな作家がいますよね。『アリアドネの〜』とか。あの辺りで「なんだろうこの名前」と思うものは大抵ギリシャ神話から来ているんですよね。初めて知りました。第二部は、オイディプス王が死ぬまでを描いているんです。でも第一部のオイディプス王とキャラクターが全然違うんですよ。
A:話としても続いているんですよね。
B:続いているんです。いわゆる権力欲とかがないオイディプス王のところに、息子たちが来るんです。オイディプス王が無意識にではありますがそんな悪をおかしたということになっています。またデルポイの神託を受けます。ギリシャ悲劇って大体神託を受けますよね。先ほどDさんが言っていましたが「運命的」です。神託に逆らえないから、それらに人間がどのように翻弄されるのか、という話ですよね。そこで与えられた神託は「オイディプス王が死んだところが栄える」というものです。だから、息子たちが自分の父親を追放した時には何もしなかったのにも関わらず、自分たちの街で死んでくれたら自分たちの街が栄えるから、一緒に来てくれと言うんです。自分のところで死んで欲しいんです。だけど、オイディプスは息子たちのところには行かず、コロノスのテセウス王が素晴らしい王として描かれ、オイディプスはコロノスで死にます。死ぬシーンがまたドラマチックというか劇的なんですよね。死ぬシーンだけは出てこないんです。それまで死に至るシーンを描写しているんですけど。最後、第三部は『アンティゴネー』です。オイディプスと一緒に行った、目の見えないオイディプスの世話をしていた娘の話です。アンティゴネーには兄が二人いるのですが、その二人はテーバイの国を自分のものにしようとして戦い、結果、相討ちをしてしまいます。両方死ぬんだけど、クレオンというおじさんが弟の側についてしまうんです。そして良くないと思っていた方に対して、埋葬もしてはいけないとおふれを出すんです。犬とかカラスに食われるままにしておけ、と。埋葬をした奴は罰するといいます。でも、アンティゴネーは、自分の兄をそのような死に方はさせられないと言って、戻って土をかけるんです。それをクレオンに見つかって死刑になりそうになる。でも周りの人たちがそれを止めようとするんです。第一部『オイディプス王』の時にはクレオンはそこまで悪者としては描かれていませんよね。
A:別に悪い人ではなかったように思います。
B:なのに、三作目になると、やたらと権力欲が強くなるんです。「なんでお前らは俺のいうことを聞けないんだ」と頑固になっているんです。まるで『コロノスのオイディプス』に出てくるオイディプスとは正反対です。周りの人がいろいろ言うのですがクレオンは全然話を聞かない。ハンモーンというクレオンの息子がいるのですが、そのハンモーンはアンティゴネーと婚約をしています。自分の義理の娘になる予定だったアンティゴネーを死刑にしようとしているわけです。そして自分の息子がそれを止めようとしている。止めようとする方法が理詰めなんです。その親子のやりとりがとても面白い。でも父は聞かない。最終的に父クレオンは考えを変えるんですが、それはまた神託によるんです。突然予言者が出てきて、予言者が言うと「やはりだめだ」となる。考えを改めて、アンティゴネーを死刑にすることはやめにしようとする。「しょうがないか、神託だったら」というようにして言うんですが、その直後に息子のハンモーンが自殺をするんです。自分の許嫁がこれから死刑になるんだと思って悲しんで自殺をしてしまうんです。結局その後にアンティゴネーも自殺するんです。まさに「なんたる悲劇」という感じなんです。三部作を通してみると、人間の権力欲とか、仏教的にいう「業」が描かれているんですね。運命に翻弄される人々はもちろんなんですけれど、歳によって変わってくるんです。特にオイディプス、そしてクレオンが変わります。アンティゴネーも変わっていくんです。アンティゴネーはむしろ運命に抗って戦おうとするんです。その辺りが、三部作を通して読むとめちゃくちゃ面白かったです。そして皆さんに一番おすすめなのは、三作目の『アンティゴネー』です。三作ともに訳者が違うからなのか、三作目は訳が一番新しいからなのか、作ごとにキャラクターが変わっているんです。三作目では、女の人であるアンティゴネーは男の人みたいな話し方をしています。アンティゴネーとクレオンとのやり取りとか、クレオンを諭そうとする息子のハンモーンのやり取りとかがとても面白いので、買って借りて読んでいただいたらと思いました。
C:会話が面白い感じなんですね。
B:『アンティゴネー』は特にそう思いました。『オイディプス王』はだんだんとわかっていく様子が面白いですよね。『アンティゴネー』は完全に舞台向きです。これも誰か舞台化していると思います。これを翻訳した人も、舞台を見て、その感じにしたいと思って書いたとありました。その舞台に出ていた人は、岸田今日子さんです。昔、『ダウンタウンのごっつええ感じ』に出ていたと思います。
D:知らないですね。
C:あー。
B:ごっつに、おばあちゃん役として出ていたじゃないですか。あの人が別な役をしているのを見て、その口調でアンティゴネーの役をつくりたいと思ってそれでつくったとありました。みらいつくり読書会番外編で、朗読会をやりたくなるくらい、掛け合いの面白さがありました。
C:『渡る世間は鬼ばかり』みたいですね。
B:そうそう。
C:会話のやりとりが面白いっていう。
B:場面がずっと変わらないんです。
C:場面が変わらないけれど親族同士でずっと言い争っている。最後妙に納得するけれど…といったかんじです。
A:『オイディプス王』では、神託が絶対的なものとして前提にありつつ、イスカオテは予言を疑っていますし、人々の中に予言がそのまま成らないであって欲しいという願いもあります。第二部、第三部では、もっと絶対的なものとして神託は扱われているのでしょうか?
B:予言がですよね。そうだと思います。だからサスペンス的な要素は二部三部では無いです。『オイディプス王』に思いっきり重ねている映画があります。韓国の『オールド・ボーイ』ってありますよね。主人公が「オ・デス」と言いますが、あれはオイディプスの略です。
D:『オールド・ボーイ』って日本の漫画が原作ですよね。ちがいましたっけ。
B:そうですね。めちゃくちゃ気持ちの悪い映画です。あまり観ることをお勧めしないのですが、映画としてはめちゃ面白いです。あれはお父さんと娘が知らないうちに交わってしまうという話です。それに気がついたお父さんがハサミで自分の舌を切るっていう。『オイディプス王』を若干デフォルメしているんですね。
A:『オイディプス王』はとても面白かったのですが、今までの読書会と違って「何を批判したのだろうか」というような話にはなりませんよね。原典の原典というような話ですもんね。
D:そもそも当時の社会状況なんかもわかっていないことが多いですよね。ポリスとか…。ソクラテスが活躍した時代と重なっていますか?
B:少し前でしょうか。
C:少し前と書いてありました。
B:重なっているのかな?
D:ピタゴラスはソクラテスよりも前ですよね。
B:多少は重なっているかもしれませんね。何百年という話だから重なっていないかもしれませんが。
A:アリストテレスが批評をしたと解説にありました。
D:書いてありましたね。
B:『詩学』の中で、ですよね。
A:そんな時代感かと思います。
B:書いている途中で、スパルタクスにアテネが負けているんです。『コロノスのオイディプス』のベースには諦め・諦念みたいなものがあるんだけれど、没落していく都市に対する諦念はアテネがスパルタに負けたというものと重なっていると書いてあるものがありました。
A:岩波の解説には、疫病の大流行は当時のアテナイであったのではないか、と書いてありました。
B:そうですね。
A:このくらいしか時代のことは書いてないように思いました。古いから難しいんですね。
B:『オイディプス王』が悲劇祭のようなもので1位ではなかったんですよね。2位だったんですよね。なんとか大会のようなもので。そんなことが書いてありました。
A:優勝を逃した、とありました。
B:また、演劇として演じられたのは『アンティゴネー』が先なんですよね。確か『オイディプス王』が後のようです。Aくんが読み飛ばしたと言っていた歌の部分ありますよね。その中に、ギリシャ神話の話がたくさん出てきています。ギリシャ神話を知っていると、コロスの部分も含めて面白いんですよね。コロスの話を聞いて「このギリシャ神話が登場するということはこの後こうなるのね」というようにわかるんだと思うんです。
A:私が全然わからない部分なんですが、ギリシャ悲劇とギリシャ神話の関係はどうなっているんですか?
B:ギリシャ神話が先にあります。ギリシャ神話は口頭伝承です。聞き伝えであるはずです。
D:テキストがあるわけではないということですか?
B:ないです。つまり、ギリシャ神話は作者がいないんです。日本書紀とかと似ているんでしょうか。
D:古事記とかですね。
B:それをたまたま誰かが編纂した、途中でまとめてつくったことはあると思います。
D:ギリシャ神話については、断片的なものはちらほら読んだりするのですが、全体として何なのかというのは全然わからないです。ナルキッソスは自分に見とれて…とか、シュシポスは永遠に労働をする…とか。その手のものは断片としてはいろいろあるんだけれど、全体としてはどういう話なのかは全然知らなくて。スサノオと誰がとか、何度も聞いているのですが、何回聞いても頭に入ってこないというような感じと似ているのでしょうか。
B:岩波新書に『ギリシャ神話』というのがあるんですよね。そんなに分厚くないです。多分『オイディプス王』の2倍くらいかな。劇とかではなくて、神話に出てくる登場人物について「この登場人物は〜である」というふうに書いてあるんです。例えば、ヘラクレスとか、火を盗んだと言われている…。
D:プロメテウスですね。
B:プロメテウス。プロメテウスも4行くらいしかなかったように思います。原発事故の後に、朝日新聞に「プロメテウスの〜」というような連載がありました。そんなギリシャ神話の名前が登場した時に、誰かが知っていてかけているんだろうな、と思っていましたが、ちょっと知ると「あれね」と思えますからね。だから『ギリシャ神話』とか、ホメロス『イーリアス』『オデュッセイア』を買ってきました。あれはトロイア戦争の話なんですよね。あの辺から知らないと、シェイクスピアとか現代の文学を本当の意味ではわからないんでしょうね。
D:そうなんですよね〜。西洋というものを理解するには「聖書」と「ギリシャ神話」と「ギリシャ哲学」の三つがコーナーストーンなんだという話がありますよね。
A:ちなみに、ユダヤ教とギリシャ神話やギリシャ悲劇の関係はどうでしょうか。ユダヤ教からすると、ギリシャ神話は異教として聖書の中には書かれていますよね。それがギリシャ神話ですよね。その辺を理解できると、聖書を読むにあたっても良いんじゃないかなと思ったんです。
B:それらが交わったのがアレクサンダーですよね。アレクサンダーが東方に進出しました。ギリシャから見るとユダヤって東方だから。アレクサンダーが最終的にインドまで行って負けますよね、その途中で行っているのがユダヤの関係の国々です。マケドニアとかそうですよね。そこで交じって、ヘブライニズムとヘレニズムが合体しているというのが、そこで起こっているはずです。そしてアレクサンダーの家庭教師がアリストテレスだったんですよね。ということで、アレクサンダーのことも勉強したくなりました。どんどん勉強したくなっています。
D:『ギリシャ哲学30講』という本を、Bさんが哲学学校で紹介していました。あれの上巻を読みました。めちゃくちゃ面白かったです。まだ下巻は読んでいませんが、彼はハイデガーをベースにギリシャ哲学を読んでいるんです。彼は一つの仮説を立てていて、ソクラテスが原点ではないというんです。ピタゴラスとかもっと前です。ヘラクレイトスとか。ヘラクレイトス系とソクラテス系がギリシャ哲学の大きな潮流であると。ヘラクレイトスは「万物流転」と言いました。自然哲学なんですよね。人間が社会をどうこうできるものではないということなんです。中国で言うと老荘思想なんです。都市の哲学ではなく田舎の哲学です。それに対してソクラテスは徹底的に脳の中の話をするんです。つまりそれは都会の哲学であって、主観性と彼は呼びますが「我思う」ということを言ったのがソクラテスです。ヘラクレイトスからくる元々のギリシャ哲学は自然哲学であったと。つまりハイデガーは主観性に汚染される前のギリシャ哲学をもう一度復元しようとしたんだと言うのが彼の読み方です。すごく面白かったです。じゃあ主観性はどこから来たのかというと、実はそれは東洋からであると言うんです。
A:へー。
D:それはゾロアスター教とかであると。ゾロアスター教って陰と陽ですよね。つまり二元論なんです。二元論というものをアレクサンダー大王があの流れの中で東洋から持ち込んだ。その流れがギリシャ哲学に入ってきた時に「我思う」が混入したんだと言っていました。めちゃくちゃ面白かったです。
A:『ギリシャ哲学30講』ですね?
B:前に紹介しましたよね。ハイデガーをベースにしてギリシャ哲学を読んでいるので。
D:ハイデガーの副読本としては最高だなと思いました。
B:プラトンが主観性の哲学というものをある程度完成させて、アリストテレスはそれを批判しようとして自然哲学に接近する。中世キリスト教って巨大な主観性として神をも想定しているじゃないですか。そことくっつく形で西洋哲学の源流ができてきたという話ですよね。ギリシャ哲学というとソクラテスやプラトンを指しますが、ギリシャ神話は日本の八百万の神と近いような気がしますね。そういう意味で、こちらも読むといいですね。あとはニーチェですね。ニーチェのデビュー作は『悲劇の誕生』といってギリシャ悲劇について書いているんです。時々、アポロンとかディオニソス的な〜というんです。
D:ディオニソス的な〜とよく言いますよね。
B:ニーチェは、ディオニソス的なものとよく言っています。そこで出てくるのがバッカスというお酒の神ですよね。ニーチェはそちらを分析しました。ハイデガーとは別な形でキリスト教を含む主観性を批判しようとしていたんですよね。人間の主観が色々なものを作り上げているんだと。『ツァラストラはかく語りき』のツァラストラはまさにゾロアスターのことですからね。ゾロアスターのような人が出てきて、超人にならねばならないと言ったんですよね。ハイデガーは詩作に行きましたが、ニーチェは人間をさらに究極形態にするためにはと考えて「超人」に行きました。そんなふうに絡んでいますね。
A:私はその辺りが分からないから。世界史も含めて私の苦手なところなんです。わからないままにしちゃっているところだから勉強しなきゃと思いました。
B:トロイア戦争とかも僕は全然知らないんです。世界史をとっていないから。世界史では出てくるんですよね?
D:出てくるでしょう。
B:トロイア戦争は世界史の史実的にはなかったと言われているんですよね。でも実はあったという説もある。
D:パンドラの箱、というのもそこの話ですか?
B:パンドラの箱はギリシャ神話に出てきますよね。思い出したけれど、ナウシカも出てくるんですよね。
C:へ〜。
B:『イーリアス』に。『オデュッセイア』だったかな。宮崎駿自身が「ナウシカはギリシャ神話からとった」と言っているんです。そして、そこから派生してナウシカも買って読みました。
D:そこは「沼」ですよ。
B:Dさん読んだんでしたっけ?
D:全部は読んでいないですよ。深入りしてしまうだろうなと思っています。めちゃくちゃ面白いらしいですね。
B:一気に七冊全部読みました。あれはもう映画とは全く別物ですよね。
D:映画は序の口なんですよね。
B:映画は2巻までなんですよね。巨神兵とかは全然動かない。最後にならないと動かない。クシャナ王が「焼き払え」と言います。あれはないんですよね。
A:私が小学生の時に、漫画が家にあって読んだら、怖くて映画は見られなくなりました。
B:怖いですよね。あれもギリシャ神話を下敷きにしているんだろうなと思うところがありました。クシャナ王は女性ですが、上にお兄ちゃんが二人いるんですよね。なんとなく『オイディプス王』っぽいんですよね。
A:そろそろ時間ですね。『オイディプス王』から先に進むとまずいということがわかってきたので…。
D:「沼」ですね。
A:ハマっていくのみで世界を全然旅できないので…。
C:旅できない。
B:確かに。
A:次のこと考えてもいいですか?
B:ギリシャ「沼」にははまらないことにするんですね。
A:足をつけたくらいでやめておきましょう。次回ってきた時に「深い沼だったな」と思い出してもう一歩踏み出すことにしましょう。次どうしましょうか。以前はイギリスか北欧かと話していました。
D:イギリスはディケンズもありますよね。後で思い出しました。
B:チャールズ・ディケンズ。『クリスマス・キャロル』ですね。
D:あれはイギリスですね。
B:どっちに行きましょうか。シェイクスピア読んだことないというのを脱するには、という感じですよね。Cさんもこれみよがしに「これマクベスね〜」と言えますよね。
C:言わないですよ〜。
B:「それオイディプスですよね〜」って。
D:知識人の匂いがしますもんね。
A:しますね。
D:シェイクスピアとかを引用するとね。
A:ではシェイクスピアに行きましょうか。
C:薄いやつでお願いします。
B:前にも言いましたが『マクベス』ですね。
C:最悪の時には映画化していてほしいと思っています。
B:『マクベス』はされているんじゃないですか?youtubeには朗読があると思います。漫画で読むシリーズもあると思いますね。
D:小学校の時、『ヴェニスの商人』を学芸会でやっていた学年がありました。
B:それはエグいですね。
D:「あなたの肉を2キロください」という話ですね。どんな先生がやらせたんだろうと思います。
B:シェイクスピアでは「どのセリフが好きでしたか」なんかを聞き合ったらいいのかもしれませんね。『マクベス』、最初の方だけ少し読みましたが、読みやすそうでしたよ。岩波で言うと後半は解説が多いし、戯曲だからセリフがほとんどですね。そんなに時間かからないように思います。
D:「to live or not to live」と言うのはなんでしたっけ?ハムレットですね。
B:36歳で『ハムレット』を書き、40歳で『オセロー』、41歳で『リア王』ですって。42歳の『マクベス』を加えて四大悲劇と呼ばれるみたいです。
C:『ロミオとジュリエット』とかなら参加者増えるかもしれませんね。
B:でも「シェイクスピア読んだことあります」と言って「何を読んだんですか」と聞かれた時、答えるなら『ロミオとジュリエット』よりも『マクベス』の方がいいですよね。知的な雰囲気を醸し出すためにも。『ロミオとジュリエット』と言うと「あー」と言われそうですよね。
A:では『マクベス』にしましょう。
B:黒板に「沼」を書いていますね。
C:「沼」注意。
A:これ以上は行かないということで描きました。
B:僕は「沼」に足を突っ込みながらイギリスに移りますよ。
A:私も実はいくつか今までの作品を引きずっています。カフカも別の作品を読み始めていますし、『星の王子さま』も解説本を読んでいて面白いです。
B:何を読んだんですか?
A:比べて読む、批評する…。
B:NHKの「100分de名著ブックス」に『星の王子さま』ありましたね。あとは『星の王子さま を読む人のために』という、「〜を読む人のために」のシリーズがあるんですけど。それも買って読んでみると面白いかもしれないですね。
C:前回の『星の王子さま』は色々な人から感想をいただいていて、前回参加してくださった方は「この話はなんとなく知っていたけれど、もう一度読もうと思った」と言っていました。
B:やはり作品の訴求力が大きいと良いのかもしれません。
A:『星の王子さまの世界』という本でした。ちょっと古い中公新書なので、結構とがっているんですよね。「『星の王子さま』を読んで、まるで無邪気に感動した気になっているふりを装うだけで、自分は心が見えるというようになれる」「童心教だ」と言っています。「子どもの心は素晴らしい」とただ読むような文学ではない、というように書いてありました。面白いです。
B:なるほど。
A:日程を決めましょう。

B:『オイディプス王』もNHKの「100分de名著」に入っていたんです。解説本もありますね。
A:こないだ、伊集院光さんがラジオでカフカについて話していたんです。
D:話していましたね。めちゃ面白かったです。カフカ『変身』を読んだ時に「これは俺のことだ」と思ったと。伊集院さんって引きこもりだったんですよね。学校に行けなくなっちゃって、それで落語家に弟子入りしたんですよね。妹が兄のためにバイオリンを弾いて、他の人からパチパチと褒められる。その時に自分が出て行ったら「出てくんなよっ」ってなる。伊集院さんは「あれもよくわかる」と言っていました。自分には兄弟がいるんだけど、自分が引きこもっている時に「今日友達来るから、絶対存在を消せよ」と言われるような経験があって、「俺のことだ」と感動したと言っていました。
A:伊集院さんは「100分de名著」をやっていますからね。「誰に一番共感しますかと言われたらカフカだ」と言っていました。
D:カフカには1ページくらいの短編があるんですよね。それを紹介していて。そのラジオ番組の中で1ページの短編を全部読んだんですよ。朗読したんです。全部朗読しても1分か2分くらいですよね。それで把握できるんです。内容は本当に訳がわからない。「〜というものがある。物体なんだけれど…」というように始まって、出口ではそれが生き物だとわかってくる。結局その「なんとか」は何か定義されていないまま終わります。「すごいな」「これはもはやハガキ職人が書くネタだな」と伊集院さんは言っていました。
B:伊集院さんですもんね。「100分de名著」は結構マニアックなやつを読んでいて面白いんですよね。
C:私もペストの回と、エンデの回を見ました。解釈なんかもわかりやすいなと思いました。
B:こないだ本屋に行ったら、100分de名著シリーズの中に「大乗仏教」というのがありました。もはや本ですら無くなっていると思っていました。それを買って、12月に備えようと思っています。12月に宗教学講座というのがあるんですけど、12月2日に「牧師先生と話そう」、12月9日には日蓮宗のお坊さんが話してくれます。
D:それはオンラインなの?
B:そうです、オンラインです。その時間帯に出られる人は少ないかもしれなくて、録画でみたいですと言っている人がいました。録画を配信して、その録画を見たいという人はいっぱいいるんだろうなと思います。
C:こないだ稲生会のスタッフと話していたら「神道はないんですか」と言われました。確かに「キリスト教」「仏教」「神道」ですよね。
D:「神道」を語れる人っているんでしょうか。
C:「神道」は神主さんでしょうか。
D:神主さんも日本書紀とかを把握しているのかといったら…。あの辺りは本当に謎ですよね。
B:だって狩野英孝さんですよね。
D:本当に教えてほしい。
A:みなさん、日程を決めましょう。

B:最近月曜日ですよね。11月2日はどうですか?
D:16時半なら大丈夫です。
A:では、11月2日16時半でお願いします。
C:100分de名著にあったらいいなー。
A:漫画があるやつも狙い目ですよね。
D:もうナウシカをやるとかね。
B:ナウシカ行きますか…。ナウシカは「沼」というより「腐海」ですね。宮崎駿の思想はここにあるんだなというのがわかりますよ。ハイデガーとかを絡めて読むと「なるほどな」と思いますが。ひたすらに長いですよね。『カムイ伝』とかに近いような気がします。印象としては。
A:では次回『マクベス』でお願いします。