今回から、稲生会の分散勤務体制でどのように利用しているのかという観点から、G suiteの機能をひとつずつ紹介していく。
まずは「スプレッドシート」。どこまでも広い草原で、スイート君が緑の格子柄のシートを広げてくれてそこに一緒に座る…、なんて妄想はどうでもよいのだが、一言で言えば「エクセル」のGoogle版である。G suiteには、Microsoftのエクセル、ワード、パワーポイントなどのGoogle版がある。
エクセルであるから、通常であれば表をつくったり、表計算のために使用するのだが、稲生会ではこれをスケジュールに利用している。具体的には、稲生会の事業所のひとつである生涯医療クリニックさっぽろにおいて、訪問診療スケジュールの作成に利用しているということである。
「なぜスプレッドシートをスケジュールに?」という問いに対する答えは、「もともとエクセルを使っていたから」。じゃあ「なぜエクセルをスケジュールに?」という問いに対しては、「色々使ってみて一番使いやすかったから」。クリニック開設以来(つまり稲生会開設以来)、ずっとエクセルを使って訪問診療スケジュールを作成している。
訪問診療「スケジュール」なので、本来であればG suiteのスケジュール機能であるGoogleカレンダーを使えばよいのでは…と思うのだが、確かに、スケジュール機能としてはカレンダーが圧倒的に便利である。今後、カレンダーの機能についてもご紹介したいのだが、稲生会でも会議の設定などについてはカレンダーの機能を活用していて、本当に便利。ただ、カレンダーはあくまで「誰かの予定」である。「みんなの予定」だったり、「まだ決まっていない誰かの予定」だったりを入れたり表示したりするにはうまく使えない。
ここで、生涯医療クリニックさっぽろでの訪問診療スケジュールの作成の流れを説明しよう。クリニックでは、人工呼吸器を必要とするようなお子さんや成人の患者さんの在宅医療を行っている。訪問診療の基本は、月に2回の訪問である。月に2回、ご自宅に訪問して診察を行い、呼吸状態など体調のチェック、気管カニューレや胃瘻チューブの交換、処方箋の発行などを行う。この月に2回の訪問診療を約200名の患者さんについてスケジューリングしていくのだが、それぞれのご家庭で大丈夫な曜日と時間、ダメな曜日と時間があるので、それを確認しながら調整していく。稲生会では、最終の訪問診療時間を夏期は16時から、冬期は15時30分からとしている。診療がおおよそ30分くらいかかり、移動もおおよそ30分かかるのだが、訪問診療を終えて事務所に戻り、残務を終えるのが終業時間の17時までにするためである。患者さんの在宅生活を支援するためには、職員の生活を安定させることも重要だと考え、開院当初からこの仕組みにしており、患者さん・ご家族にもご理解頂いている。
訪問診療を行う医師は4~6名(常勤4名に非常勤1~2名)、それに加えて歯科医師が1名いる。分散勤務体制になってから、医科医師のうち1列は「往診列」ということで定期の訪問診療を入れていない。ということで、医科については毎日3~5列に、3~6件ずつくらいの訪問スケジュールを入れていく。訪問診療だけでなく、院内のカンファレンスや病院から在宅移行する患者さんのカンファレンス、外部機関での診療などもあるため、調整はけっこう大変。それに加え、1~2年に一度は在宅で呼吸機能検査(夜間睡眠中、皮膚にクリップをつけて酸素飽和度や血中の二酸化炭素濃度を測る検査)を行うため、その調整も加わるので、かなり複雑な調整になっている。
事務職員がある程度スケジューリングした後、看護師が患者の状態によって訪問スケジュールの調整をしたり、どの医師が訪問すべきか、どの職員が「同行者」として一緒に訪問するか、ということも考えながら最終的な訪問スケジュールを決定する。このような調整を行う際、「1カ月分のスケジュール」を一瞥できるようにする必要があり、A3の用紙に文字を小さくして1カ月分のスケジュールを印刷しているのだが、これはGoogleカレンダーではできない(複数名のスケジュールを1カ月分表示すると、予定の内容は見えなくなってしまう)。ということで、ずっとエクセルを利用していたという経緯があり、今回G suiteを導入した時点で、それまで使用していたエクセルをそのままスプレッドシートとしてアップロードしたものを現在は使用している。
ちなみに、以前は医師以外は事務所内部でのみアクセスできるシステムにエクセルファイルを保存していたため、医師以外の職員は事務所の外でスケジュールを見られないという弊害があった。その日の朝の時点でのスケジュールをスクリーンショットしたものを共有したりしていたのだが、もちろん途中で修正が入るため、リアルタイムで確認することはできない。今回、G suiteのスプレッドシートにしたことで、全職員がどこからでもアクセスできるようになった。そうなると、スケジュールの入力や修正も全職員がどこからでも…といきたいところなのだが、それはまた別の問題が。多くの人が同時に色々修正すると、リアルタイムに確認できるとは言ってもやっぱり調整が難しくなる。しかも、誤った修正や削除など、エラーも生じやすくなる。ということで、入力・修正・削除ができるのは一部の事務職員や看護師など「スケジュール班」のみとし、他の職員は「コメント」を入力するということにした。当初は多くのエラーが生じたが、スケジュール班のメンバーが連日システムの修正をしてくれて、2週間くらいで安定した運用となった。