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太樹さんのこと_vol.3

22025.10.10_公開

時間をつぶしていると,
シロクマさんが腕時計をみながら話し始めました.
「(移動に)45分はかかるので,15時半に帰ってくるには…
…14時45にはあっちを出ないと」
「ここを13時半に出発できても,
…あっちにいれるのは30分くらいだね」
少し緊張感のある会話でした.

病院のスタッフに呼ばれて,病室に行ってからはバタバタと時間が過ぎました.
太樹さんを囲む人たちの一列後ろにいる私は,
梅村さんと太樹さんがやり取りする姿を見て,
太樹さんはこうやってコミュニケーションするんだった,と思い出しました.
太樹さんは,YesとNoで表情を変えます.
バタバタと進む準備の合間を見つけて,
私が少し遠くから背伸びをし「太樹さん,来ました」と言って手を振ると,
太樹さんはYesの表情で返事をしました.

太樹さんの乗ったストレッチャーに手をかける人,
呼吸器と加温加湿器の載ったキャスター付きトレーをストレッチャーの速度に合わせて動かす人,
太樹さんの喉元に繋がった呼吸器の管にテンションがかからないように抑える人,
一人がいくつかの役割を果たしながら,廊下を進みます.

ストレッチャーに乗った太樹さんと大人が5人が入ると,広い広いエレベーターも,とても狭く感じました.

「これより先には入らないでください」と書かれた自動ドアを通って,私たちは外に出ました.
外にはすでにシロクマさんが車をつけておいてくれて,
バックドアが開き,昇降機が降りた状態になっていました.
昇降機のどこに太樹さんが乗るのか,どこに機器を固定するのか,
しっかりと予定されていたであろう方法で,太樹さんは乗車しました.

私がしたことは,病院のスタッフが私に渡してくれた「外出許可証」の写しを無くさずに持つことだけでした.

アクセルが踏まれ,発進した時,
私たちは窓を開け,もうすでに建物の中に向かって歩き始めている病院スタッフに向けて
「いってきます!」と大きな声で言いました.
私は助手席に乗っていたので,太樹さんの表情は確認できませんでしたが,
おそらく太樹さんも大きな声で「いってきます!」と言ったのだろうと思います.

続きます.

2025.10.9
みらいつくり研究所
まついかい